シリーズアメリカ再発見㊵
ウィスコンシン
チェリー漬けの日々

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

東にレイク・ミシガン、西にグリーンベイ。湖と湾に囲まれた半島に、赤くて甘酸っぱいタルトチェリーが実をつける。名物料理「フィッシュ・ボイル」の、燃えさかる炎。夕暮れの湖面に向かって小石投げに興じる子供たち……。夏の終わりの、ドアー・カウンティー(ウィスコンシン州)を訪れた。

ウィスコンシン州ドアー・カウンティーの名産、タルトチェリー Photo © Mirei Sato

ウィスコンシン州ドアー・カウンティーの名産、タルトチェリー
Photo © Mirei Sato

これがホントのアメリカンチェリー
揺さぶって6~7秒、数千個を収穫

 ウィスコンシン州北東部、ドアー・カウンティー(Door County)。シークエスト果樹園(Seaquist Orchard)の朝は、早い。
 真っ赤なチェリーをいっぱいにつけた果樹園の木立の間を、トラクターが進んでくる。木に近づくと、トラクターの先端から厚手の布がバーッと開いて、木の幹を根元から取り囲んだ。逆さにして開いた傘のようなかっこうだ。
 運転手がスイッチを入れる。ザサザサザサザサッ。激しく木が揺れる。何千個というチェリーの実が布の中に落ち、そのままトラクターに吸い込まれていった。
 わずか6~7秒。1本終わると、次の木へ。収穫期だから、忙しい。広大な果樹園を、数台のトラクターがジグザグと進んでいく。
 ウィスコンシンは、全米有数のチェリーの生産地だ。生産量では、ミシガン、ニューヨーク、ユタに次いで、4番目に多い。
 そう聞いて、はじめは意外だった。え、ワシントン州じゃないの、と。でも、ここでいうチェリーは、日本人が知っている「アメリカンチェリー」とは種類が違うのだ。タルトチェリー(tart cherry)といって、じゃっかん小粒。
 日本では、サクランボもアメリカンチェリーも、そのまま果物として食べるのが常識だ。けれどアメリカでは、チェリーは、生で食べるよりも、ジャムやジュース、ドライフルーツ、パイのフィリングとして消費するほうが、圧倒的に多い。それに大活躍するのがタルトチェリーだ。
 ウィスコンシン産チェリーの9割が、ドアー・カウンティーで生産・収穫されている。総栽培面積が2500エーカー以上。年間800~1200万パウンドを生産する。
 シークエスト果樹園は、そのなかで、一番大きな果樹園だ。家族経営で、4世代続いている。
 現オーナーのデール・シークエストさんが、トラクターから摘みたてのチェリーを拾い上げて、どうぞ、と勧めてくれた。試食する。名前は「タルト」だけれど、十分に甘い。


1

2 3 4 5

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 環境編 子どもが生きいきと暮らす海外生活のために 両親の海外駐在に伴って日本...
  2. 2025年2月8日

    旅先の美術館
    Norton Museum of Art / West Palm Beach フロリダはウエ...
  3. 約6億年も昔の生物たちの姿が鮮明に残るミステイクン・ポイントは、世界中の研究者から注目を集めている...
  4. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040」を自身...
  5. ニューヨーク市内で「一軒家」を探すのは至難の業です。というのも、広い敷地に建てられた一軒家...
  6. 鎌倉の日本家屋 娘家族が今、7週間日本を旅行している。昨年はイタリアに2カ月旅した。毎年異...
  7. 「石炭紀のガラパゴス」として知られ、石炭紀後期のペンシルバニア紀の地層が世界でもっとも広範囲に広が...
  8. ジャパニーズウイスキー 人気はどこから始まった? ウイスキー好きならJapanese...
ページ上部へ戻る