シリーズアメリカ再発見㊶
ハワイ島 マウナラニの息吹

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

カメが集う場所

マウナラニの海岸にあがってきて休むカメ Photo © Mirei Sato

マウナラニの海岸にあがってきて休むカメ
Photo © Mirei Sato

ハワイでは、すべてのものに命があり、スピリットが宿る。なかでもアオウミガメ(Hawaiian Green Sea Turtle)は、ハワイの守り神とされる特別な生き物だ。
絶滅の危機に瀕しているアオウミガメ(ハワイ語で「ホヌ」)は、1972年に州によって保護の対象となった。以来、マウナラニでは、敷地内の池でカメの赤ちゃんを育て、7月4日に海に放すプログラムを続けている。
地元の人が、「タートル・インディペンデンス・デー」と呼ぶ儀式。アメリカ中が花火で国の独立を祝う日に、ここでは成長したカメの独立を祝う。フラダンスやチャントに祝福されて、カメたちが海へ向かってパレードする。それを見に毎年、1000人近い人が来るという。
池で人間に育てられたカメが、いきなり大海に出て大丈夫なのだろうか。泳ぎ方や行き先は、教えなくてもわかるのか。マウナラニでカメの生育や養魚池を管理している、ピイー・ラエハさんに聞いてみた。
「まったく問題ありません。1万年も前からいる生き物ですから。教えなくても、知識は受け継がれているんでしょう」
カメは、ハワイの人のルーツを示すシンボルでもある。ピイーさんによれば、ハワイの人の祖先はイースター島やタヒチのほうからやってきた。豊かで健康な社会が探究心と冒険心を育み、海へ乗り出した人々がたどり着いたのがハワイだった、と考えられている。
「私たちの間では、『マラマ・ホヌ・マラマ・ホヌア』(Malama Honu Malama Honua)=カメを大切にすることは世界を大切にすること、というフレーズがあるぐらいです」
カメの甲羅は、世界地図。民族の旅路の記録なのだ。
夕暮れどき、マウナラニの砂浜には、アオウミガメが海からあがってくる。お気に入りの場所までよじり進むと、あとは体を休めて、目を閉じている。
カメは、自分が生まれた場所をちゃんと覚えていて、世界のどこの海にあっても、産卵時期になると必ず同じ海岸に戻ってくる、と聞いたことがある。
今ここで休んでいるのは、もしかしたら、何年か前にマウナラニで育てられ海へ送り出されたカメたちの、成長した姿なのかもしれない。

◆  ◆  

 「ハワイの人々は、ふたつの世界に生きている。フィジカルな世界と、スピリチュアルな世界です。そのバランスが大切。ふたつの世界をつないでいるのが、ネイチャーです」とピイーさんは言う。
こうした世界観を含めて、ハワイの文化や歴史を、私たちはどれだけ学んでいるだろうか。いわゆる「アメリカ史、アメリカ文化」の授業やテキストの中で、ハワイについて教える機会はほとんどない。大半のアメリカ人は、同じ国でありながら、ハワイについて実はほとんど知らないのではないか。
私がそう言うと、ピイーさんは、「それは地元でも同じです」と答えた。同化政策で、学校でハワイ語の使用を禁じられた時期もあり、文化の伝承は難しくなっているという。
ピイーさんとダニエルさんは、年間3000人ほどの子供たちをマウナラニで受け入れる。養魚池やカメの生育を通して、自然科学や文化を教えているそうだ。
「It’s our “Huli Ana” (responsibility)」とピイーさん。「ダンスやソング、自宅の裏庭で飲み食いしながら催す会でもいい。次世代に、ストーリーを伝えていく責任があると思っています」

私自身が移民でありながら、こんなことを言うのはおかしいのだけれど・・・、アメリカを旅していると、土地とそこに長く住んできた人間とは切り離せない、と思わされることが多い。人がランドスケープをつくるのか、あるいは、ランドスケープが人をつくるのか。
ハワイ島へ降り立ってすぐに思ったのは、ここはアメリカではない、ということだった。もっとはっきり言えば、白人の土地ではない、と。
ハワイ島の自然や、そこで生きてきた人の価値観は、キリスト教や白人の価値観を主流とする「アメリカ」とはかなり違う。アメリカであって、アメリカではない。体がよじれるような感覚に襲われた。
ピイーさんが言う「ふたつの世界」。それは、本土と島、植民者と先住民、とも私には読めた。あまりにギャップが大きくて、考えるほどに身を引き裂かれる毎日なのではと思ってしまう。
私がそう漏らすと、ピイーさんは、「Everything is connected」と繰り返した。
私は、サウスダコタを訪れたときに教わった、ラコタ先住民の「ミタクエオヤシン」という言葉を思い出していた。「All are related」。侵略者も犠牲者も、みんな、つながっている。
ギャップに身を引き裂かれているのは、むしろ私(たち)であって、迷い喪失しているのも、彼らではなく、私(たち)なのかもしれない。
そんなことを考えながら、マウナラニを後にした。


取材協力/Special thanks to Mauna Lani Bay Hotel & Bungalows, and Delta Airlines

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