シリーズ世界へ! YOLO⑮
Pura Vida! コスタリカ 後編
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2013年10月20日
スペイン語で「肥沃な海岸」という名のこの国は、カリブ海と太平洋にはさまれた、アメリカ大陸のど真ん中にある。国土面積はウェストバージニア州とほぼ同じだが、そこにある豊かさといったら…。世界のバイオダイバーシティー(生物学的多様性)の約5%が集中する。軍隊を放棄し、環境保護を最優先に掲げ、エコツーリズムの先進国として世界中から人を集めるコスタリカ。その魅力と見どころの一端を紹介する。
Savegre サベグレ
コスタリカを縦断して走る道路「パン・アメリカン・ハイウエー」。アラスカを最北端に、南はアルゼンチンまで。メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ…。途中で枝分かれしたり中断したりしながら、全長3万マイルに渡って、北・中・南米大陸を貫く。旅好きならいつか走破してみたい、スリルとロマンにあふれたルートだ。若き日のチェ・ゲバラがオートバイで駆け抜けた道でもある。
首都サンホセから、このパン・アメリカン・ハイウエーに乗って南東へ。やがてパナマ国境にまたがる、世界遺産のタラマンカ山脈(Cordillera de Talamanca)にぶつかる。標高3819メートル、コスタリカで最も高いチリッポ・ヒル(Cello Chirripo)を抜ける。夏だというのに霧が濃く、風も冷たい。昔の農夫は、牛が引く荷車で山を越え、旅をしながら農産物を売っていた。運悪く車輪が壊れてこの山中で夜を迎え、凍え死ぬ人が多かったので、スペイン語で「死の丘」と呼ばれているそうだ。
その丘を抜けたあたりで、ハイウエーを降りた。ここにコスタリカでも一、二を争う清流、サベグレ川(Rio Savegre)がある。川に沿って谷底へ、未舗装のぬかるんだ山道を30分ほど下る。伝説の鳥、ケッツァール(quetzal)が住む森に到着した。
この鳥を見るために、世界中からバードウォッチャーがやってくる。朝6時。すでに十数人がカメラと双眼鏡を手に集まっていた。ここにはケッツァールの好物アボカドの木が茂っていて、その近くに巣がある。ヒナにエサを与えるため親鳥が飛んでくるに違いないと期待して、待っているのだ。
バードウォッチングガイドのマリーノさんと一緒に、しばらく待つ。メスが飛んできた。トカゲを口にくわえ、注意深く周囲を見渡して巣の中に運び込む。私たちが立っている場所からは巣の中まで覗けなかったが、ヒナがいるのだろう。
そして、いよいよオスの登場だ。こちらはアボカドの実を口にくわえている。輝く緑の羽と、真っ赤な腹、黄色のくちばし。白と黄緑、エメラルドグリーンがグラデーションになった長い尾。頭のてっぺんと首のまわりが、フサフサと毛羽だっている。朝日が上がるにつれ、太陽の反射を受けてますます輝いた。飛び立つ瞬間、羽と尾が広がり、鮮やかなターコイズブルーが空中を舞う。連写のシャッター音とともに、ため息が漏れた。
「ここではケッツァールは映画スター並みの人気でね」とマリーノさん。その血を飲むと永遠の命が手に入るという、手塚治虫の漫画「火の鳥」はケッツァールをモデルにしたそうで、「日本のテレビ局の取材に付き合ったこともあるよ」と言っていた。
ケッツァールは標高2000メートル級の山と雲霧林(cloud forest)気候を好む。パナマやニカラグアでも見られるし、グアテマラでは「国の鳥」にまでなっているが、生息数と遭遇のチャンスはコスタリカが圧倒的に多い。タラマンカ山脈は絶好の環境で、サベグレ峡谷には160羽ぐらいが巣を作っているそうだ。
どんな報道現場でも見たことがないほど巨大な三脚と長い望遠レンズをかついだ女性2人組に会った。ワシントンDC在住で、ケッツァールに「取り憑かれて」休暇のたびにサベグレに来ているという。「12回目にして初めてヒナの写真が撮れたのよ」と興奮して見せてくれた。
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