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厳選された至上のレストラン第6回 〜Terra & Bar Terra〜
- 2017年12月23日
日本からの食材を積極的に使っているお店を応援しようという趣旨のもと、アメリカ国内の様々なレストランを紹介していく。
カリフォルニアワインの銘醸地、ナパ・バレーの真ん中に位置する、セント・ヘレナ市(St. Helena)というかわいらしい町に、重厚な石造りの大きな一軒家がある。そこに「Terra(テラ)」「Bar Terra(バー・テラ)」がある。1988年、若い日本人シェフとアメリカ人のペイストリーシェフの夫婦二人が始めたレストランだ。
当時のナパ・バレーは高級ワインの産地としてようやく認知され始めたばかりで、高級レストランはほとんどなかった。ナパ・バレーの高級レストランのパイオニアであるテラはミシュランをはじめ、さまざまな国際的な賞を受賞している、カリフォルニアを代表するレストランの一つとなっている。
「日本」というアクセントが垣間見える「パーソナル・キュイジーヌ」
このテラでオーナーシェフを務めているのが、ヒロ・曽根氏。カリフォルニアで「Terraのヒロ」といえば、泣く子も黙るレストラン界の重鎮だ。テラの料理は独創的。パーソナル・キュイジーヌが最近日本でも流行っているが、要はフレンチや中華といった料理の枠にとらわれず、シェフの感性で生み出される料理のことをいう。
「シェフがどこで生まれ、育ち、何を経験したかが料理に反映される。僕が日本で修行したのはフレンチとイタリアンのレストラン。だから僕の料理のベースはその二つ。でも日本人なので、日本というアクセントが食材や味付けや調理法に垣間見える料理、それが僕のパーソナル・キュイジーヌです。そのスタイルは創業当時から変わっていません」と曽根氏は言う。
日本にいた頃は、レシピを忠実に「再現」するのが正しい料理だと思っていた。それが1984年、ロサンゼルスの「スパーゴ(Spago)」というレストランで、ウルフギャング・パック(Wolfgang Puck)という著名なシェフの下で働くようになり、彼が次々に生み出す独創的な料理を目の当たりにし、 天地がひっくり返るような衝撃を受けたという。「 自分が解き放たれた感じがしました。それからはヒロ・曽根のパーソナル・キュイジーヌに邁進です」。
テラの料理には日本があちこちに散りばめられている。それは食材であったり、調理法であったり、盛り付けであったりするが、決して「和食」ではない。あくまでベースはフレンチやイタリアンでありながら、和食の懐石料理のコースに紛れ込んでも違和感がないのだ。
たとえば前菜として人気の「マグロのクルード(Tuna Crudo)」は、マグロの刺身に日本産の柚子ジュースを加えたソースをかけたもの。添え物はキュウリとカブの酢の物を思わせるサラダだ。このまま「変わり刺身」として和食レストランで出されても違和感はないが、決して日本を主張し過ぎていない。「あくまで日本はアクセント。でもそのアクセントがあるおかげで味の幅が広がり、またメニューの幅が広がる。それをお客さんがおもしろがってくれるのかな」。
日本産の食材を使うメリット
使う食材の選定は曽根氏みずから行う。
「僕の場合は、産地がどこのものであれ最高品質のものを使いたいので、品質に妥協をしてまで産地にこだわりませんが、結果的に品質が一番自分の求めているものに合致するので日本産の食材を使うことも多いですね。たとえば人気メニューの一つに「北海道産ホタテのグリルと蝦夷アワビのエリンギ添え(Grilled Hokkaido Scallop, Ezo Abalone, Escargot Butter, King Trumpets)」がありますが、ホタテはアメリカ産のものを含めいろいろ試した結果、北海道産のものが一番自分の求めているものに近かった。 ただアワビはハワイ産で、これもいろいろな産地のものを厳しく検討した結果です」
日本産の食材を使う一番のメリットはメニューに幅ができることだという。
「たとえば、こちらでディップとして人気のあるフムスは中東の料理で豆を擂り潰したもの。これに日本の味噌をちょっと加えると、旨みが補われておいしさが増します。両方とも原料は豆ですから、違和感がない。味噌を加えていることは見えないけれど、でも確実においしくなり、またユニークになる。柚子しかり、山椒しかり、塩麹しかり。日本にいるより、こちらにいると、日本の食材の使い方の新しいアイディアがどんどん湧き出てきて楽しいですね」
オープン当時から看板メニューになっているのが「銀ダラの酒マリネと海老のラビオリ紫蘇風味出汁がけ (Sake Marinated Black Cod, Shrimp Dumpling, Shiso Broth)」だ。「日本なら酒粕を使うところなのでしょうが、僕は代わりに日本酒、みりんと醤油を合わせたタレにマリネしています。多い時にはお客さんの二人に一人がオーダする人気メニューです」。
隣接するバー・テラの人気メニューは舞茸の天ぷらやラーメン。毎週月曜の夕方、ラーメンを食べに来る7人の男性仲良しグループがいるそうで、カウンターに一列に座って思いおもいにワインや日本酒を嗜みながら、みんなで楽しくラーメンを啜っているそうだ。
食材や料理の裏にあるストーリーがお客さんに興味を抱かせる
テラに来るお客さんのほぼ9割が非日本人だ。世界各国からの観光客のほかにワイナリー関係者も多い。特にワイナリーのオーナーやワインメーカーたちは海外出張が多く、世界中のおいしいものを知っている食通ばかり。そういうレベルの高い人たちにいかに喜んでもらうか。ありきたりのものでは興味を持ってもらえない。
「ストーリーが大切です。たとえば日本酒。しばらく前まで宮城県の日本酒を置いていました。それだけでもシェフの生まれ故郷の酒ということで興味を持ってもらえましたが(曽根氏は宮城県栗原市出身)、『栗駒山』という銘柄の、通常の酒米で造ったものとヒトメボレで造ったものの2種類を置いて、その二つの違いを説明しながら飲み比べてもらいました。とても興味を持ってもらえましたよ」
曽根氏がみずから積極的にお客さんのテーブルを周り、その料理や食材の裏にあるおもしろいストーリーを伝え、情報を提供し、顧客のエデュケーターになっている。またここで働くスタッフ全員も、曽根氏と同じようにテラの料理のアンバサダー、食材のエデュケーターになれるように、スタッフトレーニングは欠かせない。
小さい生産者が作り、特徴やこだわりのある、現地で手に入らない食材
「日本産食材については、こだわりのある、おもしろいものを積極的に取り扱っていきたい。特に小さい生産者がこだわりを持って作っていて、まだ輸入されていないものがあればぜひ試してみたいです。あとは、農薬等を使っていない安全なもの。こちらの人はとても敏感です」
日本の食材は現在、アメリカのシェフの間でもかなり関心が高くなってきている。「シェフのなかには、出汁を自分の料理に取り入れたり、昆布を使って旨みを補ったりしている人も増えています。これからますます日本食材への需要は和食の枠を超えて増えていくでしょうね」。
写真:©︎2017 Akiko Nabeshima http://www.akikophoto.com/
Terra & Bar Terra
日本産食材サポーター店
■ 住所:1345 Railroad Ave., St. Helena, CA 94574
■ 電話:707-963-8931
■ホームページ:http://www.terrarestaurant.com/
日本産食材サポーター店認定制度
日本農林水産省が定める制度で、日本産の食材や酒類を積極的に使用し魅力を伝えているお店を日本産食材サポーター店として応援する制度が米国でも始まりました。日本産食材の輸出を促進する事で、日本の生産者や食品事業者を支援していくものです。今後もこのコラムで、日本産食材を取り扱うお店やレストランをご紹介していきます。対象は全米の食品小売店と飲食店です。ご推薦のお店やレストランがございましたら、是非ご連絡お願い致します。
日本産食材サポーター店認定制度の農林水産省ウェブサイト:
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/suppo.html
日本産食材サポーター店認定制度のジェトロウェブサイト:
https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/
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