厳選された至上のレストラン第9回
〜Sanraku San Jose Oakridge Mall店〜

日本からの食材を積極的に使っているお店を応援しようという趣旨のもと、アメリカ国内の様々なレストランを紹介していく。

SFベイエリアの日本食を牽引してきた老舗

人通りの多いモールの中央付近に位置し、週末は買い物客で行列ができるほど人気。本物の和食が食べられるお店として、ここだけを目指して来るお客さんも多い

「サンフランシスコ市内には懐石料理やハイエンドの日本食レストランが最近いくつもできていますが、ここサンノゼにはいわゆる『アメリカナイズされた日本食店』がまだまだ多いと聞きます。そこでシリコンバレーの人たちに本物の日本食を気軽に食べて欲しいと思い、2016年にサンノゼ店をオープンしました」と語るのは、「サンラク(Sanraku)」社長のヒロ・服部(服部裕之)さん。

1989年、サンフランシスコの中心街であるユニオンスクエアに近いサター通りに1号店をオープンしてから、今日まで変わらず本物の日本食を気軽に食べられるお店として、地元の人たちのみならず、観光客にも絶大なる人気を誇っている。また、サンフランシスコのソーマ (SOMA)地区の中心地にあるメトレオン (Metreon)内にもビルのオープン当初から店を構え、30年近くSFベイエリアの日本食を牽引してきた。

「僕のミッションは日本食文化の発展に貢献すること。本物の日本食を提供することで、SFベイエリアの人たちに日本というものを理解して欲しいと思います」と言う。「英語の勉強のために30年前ニューヨークに来て、それから母の仕事の手伝いをするために短期間のつもりでアメリカ大陸を横断してこちらに来ました。本当は数ヶ月でニューヨークに帰る予定だったのに、あっという間に今年で28年です」と笑う。

左:社長のヒロ・服部(服部裕之)さん。短期間の予定でベイエリアに来たが、 気づいたら在カリフォルニアは30年近くになってしまったと笑う
右:ベイエリアで日本産食材サポーター認定制度がスタートした直後から、認定店として日本産食材を積極的にPR、サポートをしてくれている

日本産食材にこだわる理由

「ここ(=サンノゼ)の顧客の8割、サンフランシスコ店はほぼ9割が日本人以外のお客様です。そういった意味では地元の人たちに受け入れられているレストランといえるでしょうが、日本人のお客様にもおいしいと言ってもらえる料理を出したいと思っています」

日本で経験を積んだ多くの料理人を日本から呼んでいる。和食が基本だが、地元の一般の方にも違和感なく受け入れてもらえるように、日本の調理方法や食材を使ってアレンジした方が良いところは潔くアレンジしている。

カウンターでお好みのお寿司を注文する、慣れたお客さんも多い。シェフと会話しながら料理を楽しむというのも、ほかのレストランでは味わえない楽しみのようだ

「たとえば寿司ですが、最近は握りでも巻物でも、カリフォルニアロールではなく、日本で食べるのと同じものを食べたいというお客様が増えています。僕がレストランを始めた頃は、ウニやトロを食べる人は少なかったのですが、今ではマグロ、サーモンに次ぐ人気です。でもその一方で、いわゆる『アメリカンロール』を欲しがる人もたくさんいます。そういう両方のニーズに応えなければなりません」

サンラクは幅広い層のお客様をターゲットにしている。「お客様には寿司カウンターで『おまかせ』で食事される方から、こども連れでセットメニューや照り焼き、天ぷら、うどんをオーダーされる方まで、またその時の気分や用途によって使い分けて、おいしかった、また来ようと思っていただけるような店を目指しています」と言う。

人気メニューはやはり、寿司や刺身などの生もの。夏が旬のカツオのタタキは、にんにくチップを散らしてダシを効かせた甘辛タレで仕上げている。「カツオの本場の高知では生姜ではなく、にんにく醤油で食べるでしょう? そのイメージです」。そして何といっても握り寿司の盛り合わせだ。「シリコンバレーという土地柄、ここで握りを注文する人は、日本に何度も行き、本物の寿司の味を知っています。寿司ネタの多くは日本から直送のものを使用しており、誰が食べても日本と変わらない味と言っていただけると思います」。

旬の人気メニューの一つ、鰹のタタキ。 現地の人に喜んでもらえるよう、食器や盛り付けにも工夫を凝らしている

寿司の盛り合わせは一番人気。特にシリコンバレーには、日本で本物の寿司を味わったことのある客が多いため、ネタの多くは築地直送の新鮮な魚を使い、日本と変わらない質の寿司を提供している

調味料や乾物、日本酒などもできる限り日本産のものを使う。「こちらのものもおいしくなってきていますが、日本産のものは次元が違う 。調味料などは日本産のものを使った時とそうでない時との仕上がりに差が出ます。なので、特にプレミアムな食材は日本産にこだわっています」。ただし、そこにはバランス感覚が必要という。「すべて日本産のものを使えれば理想なのでしょうが、とてつもなく高いものになってしまう。それでは日本食の普及には繋がりにくい。それに野菜や肉など地元産で非常においしいものがたくさんある。それらをうまく使いながら、本物の日本食を広く提供していく……それが僕のテーマです」。

アメリカ産、日本産の日本酒を各種取り揃えている。 日本酒ブームもあり、食事と一緒に楽しむ人が多くなっているという

料理の味だけでなく、お店での経験も含めて「日本食」

ヘッドシェフのサトシさんと寿司シェフのユキコさん。女性の寿司シェフは珍しく、お客さんの人気者。サトシさんの指示のもと、キビキビとオーダーをさばいていく

普通、レストランで顧客がシェフと対話しながら食事を楽しめるのは寿司カウンターぐらいだろう。「おいしいものが食べたいと思って来てくれるお客様が多いので、シェフから『今日はこれがおすすめですよ』と言われると、試してみたくなる。産地はどこで、どんなものと合うかなど、ちょっとした情報を教えてもらうと、一層興味も湧いてくるんです。シェフもまた、自分の作ったものを『おいしい』と言ってもらえると嬉しい。たとえば、ここの寿司シェフのエイゾウは、まだ日本から来たばかりで英語がほとんど喋れないはずなのに、なぜかお客様とちゃんと通じて盛り上がっている。そしてそのお客様は、次に来るときにエイゾウの作る料理を楽しみにしてくれる。こういうのって大事だと思うんですよ。料理の味だけでなく、お店での経験も含めて日本食を楽しんでもらいたいと思っています」。

笑顔が素敵な寿司シェフのエイゾウさん。英語はほとんどできないが、「一生懸命伝えようとすると、何となく通じるみたいなんですよね」と笑う

だから、サービスも日本的にすることにこだわっている。「ウェイトスタッフの多くは、日本人以外の現地スタッフです。こちらのお客様の文化やニーズを理解しながらも、日本食レストランなのだから、きちんと日本式のきめ細かいサービスをしなければなりません。時間はかかりますが、毎日起こったことをケーススタディにして、基本的なところから細かく説明してトレーニングをしています」。

調理スタッフの多くは日本人だが、サーバースタッフはほとんど現地人。料理だけでなくサービスも日本的なものを提供したいという思いで、スタッフには基本的なことから一つひとつていねいに教えている

キッチン内部。寿司や刺身以外の火を使う料理は、キッチンで調理する

今後取り入れたい日本産の食材

「今後は日本産の和牛をもっと積極的に使いたいと思っています。シリコンバレーという土地柄か、寿司と同様に、少々高いお金を払ってもおいしいものを食べたいという人が増えています。おいしくて、かつバリュー(お得感)のあるもの。そういったものがどんどんこちらに入ってくれば、と思っています」

広々とした店内。土地柄、休日は家族連れも多く訪れる

写真:©︎2017 Akiko Nabeshima http://www.akikophoto.com/

 

Sanraku
(サンノゼ・オークリッジモール店)

日本産食材サポーター店

■住所:925 Blossom Hill Road, San Jose, CA 95123
■電話:408-363-2110
■ホームページ:http://www.sanraku.com/sanraku.html
※以下にも店舗あり。
•704 Sutter Street San Francisco / Sutter 店
•135 4th Street San Francisco / Metreon店

日本産食材サポーター店認定制度

日本農林水産省が定める制度で、日本産の食材や酒類を積極的に使用し魅力を伝えているお店を日本産食材サポーター店として応援する制度が米国でも始まりました。日本産食材の輸出を促進する事で、日本の生産者や食品事業者を支援していくものです。今後もこのコラムで、日本産食材を取り扱うお店やレストランをご紹介していきます。対象は全米の食品小売店と飲食店です。ご推薦のお店やレストランがございましたら、是非ご連絡お願い致します。


日本産食材サポーター店認定制度の農林水産省ウェブサイト
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/syokubun/suppo.html
日本産食材サポーター店認定制度のジェトロウェブサイト
https://www.jetro.go.jp/agriportal/supporter/

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鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

鈴木優子 (Yuko Suzuki-Bischoff)

ライタープロフィール

大学卒業後、リクルート社勤務を経て1992年渡米。1994年にシカゴのノースウエスタン大学ケロッグビジネススクール卒、MBA。ニューヨークのペプシコ本社、カリフォルニアのE&Jガロワイナリーでマーケティング・ディレクターをしたのち、2004年独立。現在、スズキ・マーケティング社およびヴィネジア社の社長として、 マーケティングコンサルティング業務とワインの輸出・マーケティング業務に携わっている。スズキ・マーケティング社は2013年よりJETROサンフランシスコ事務所の食品担当コーディネーターとして、北米に進出を希望する日本企業の支援業務を実施。さらに日本産食材サポーター店の公式認定団体として、サポーター店の認定およびサポート業務も行う。
ワインのほか日本酒と焼酎が大好きで、JETRO-LA主催の焼酎輸出促進協議会メンバー。夫と娘、2匹の犬とともにサンノゼに在住。

ベイエリア・日本産地食材サポーター店ホームページ:
http://www.japanesefoodsupportersf.com/

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