
保護者が撮影しなくても、式の動画を繰り返し再生できるのも良い点。画面は本来の卒業式の会場だったフットボールフィールド
この原稿を書いているのは2020年6月12日。昨日、ニナの義務教育が終了した。オンラインでのバーチャル卒業式という特殊な形で。3月中旬、ロックダウンに突入する前はまさか、リアルな卒業式がなくなってしまうとは思っていなかった。その時点で、クラスはすべてオンライン、または宿題提出形式に切り替わった。その後、年度内のキャンパス再開はないとの判断が下された段階で、卒業式はもう実施されないだろうということが想像できた。
アメリカには入学式や始業式といった区切りの行事がない。その分、学業を頑張って完遂したことを盛大に祝う意味で、卒業式はアメリカの学生生活にとって欠かせないものだ。しかも、小学校や中学校の卒業式はプロモーションセレモニーと呼ばれ、「次の学校への進学につながる式」だが、高校では義務教育終了ということで、グラデュエーションセレモニーと初めて「卒業」という言葉が使われる。
リアルな卒業式は5年前、長男のノアがニナと同じ高校を卒業する時に経験した。炎天下のフットボールスタジアムのスタンド席で保護者たちが見守るなか、卒業生たちは太陽光を遮る物が何もない広大なスタジアムのフィールド上で、2時間に及ぶ式に耐えた。まさに「耐えた」という表現がふさわしく、保護者の中には熱中症で倒れて救急隊に運び出された人もいた。ニナの学年の卒業式がおそらくなくなるだろうとの予測が立った時、あの時の「伝統的な」式の光景が蘇った。
高校側は卒業生たちを祝うために、バーチャルな式の開催を決断した。そのために出された課題は、ガウンとキャップを身に付けた卒業生が「ドライブウェイ、庭、公園などで画面奥から手前に歩いてくるシーン」「卒業証書を手にしたアップのシーン」「キャップのタッセルを右から左に回すシーン」「キャップを空中に放り投げるシーン」を動画で撮影して提出することだった。
動画提出締切の少し前、学校にガウンとキャップを取りに行った。完全なドライブスルー方式で、私が運転する車の後部座席に座ったマスク姿のニナが、窓越しに数学教師のミズ・Kから大きな箱を受け取った。ミズ・Kは大きな声で「ニナ! コングラチュレーションズ」と言葉をかけてくれた。この時、ニナはただ「サンキュー、ミズ・K」と返事をしたが、先生の率直なお祝いの言葉が身に染みた私は涙を堪えることができなかった。
自由な個性と多様性
さて、バーチャル卒業式の日を迎えた。夕方5時開始。テレビ画面をYou Tubeのチャンネルに切り替えると、イントロダクションとして卒業生たちが父や母に感謝のメッセージを送るシーンが流れた。各生徒の登場シーンは圧巻だった。ある生徒は車を運転しながら画面を横切り、ある生徒はスケートボードで走り抜けた。自宅のプールから出て来る子もいれば、トランポリンで宙返りした後に画面に向かって来る子も。またカリフォルニアらしくガウン姿でサーフィンをしている子や、ビーチのライフガードの小屋から出て来る子まで。ニナの高校は1学年770人とマンモスなのだが、登場シーンも実に770通りの個性に溢れていた。そのような自由な雰囲気は、スタジアムでの「伝統的な」式では決して実感できなかったはずだ。
登場シーンの後は生徒全員が卒業証書を手にした動画や写真に、氏名、進学先、そして受け取った奨学金などの説明がついたシーンが流れた。ここでは各生徒の顔や名前から、彼らが世界中から集まって来た移民の子どもたちという多様性をうかがい知ることができた。知っている子どもにはテレビの前で声援を送り、個人的に知らない子にもこのバーチャル卒業式を通じて親しみを抱いた。
リアルな卒業式のような臨場感は得られなかったが、それでもバーチャルな卒業式にも良い点はたくさんある。もしかしたら、今後オンラインミーティングがますます増えていくことが予想されているように、世界中どこからでも参加できるバーチャルな式の需要も増えていくかもしれない。そんな可能性も感じた、感動のバーチャル体験だった。
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