チャータースクールとは?

パンデミックの終焉とともに、今年の春以降、各国間の交流が再開した。そして私は5月、日本の某学校法人の視察団のアテンドを務めることになった。視察の目的は、「カリフォルニアの優秀な大学や高校を見学し、経営陣との意見交換を通じて同学園の未来の計画に生かせるヒントを得たい」というもの。そこで私は、カリフォルニア州でも成績上位にランクされている大学や高校に申し込みを続け、結果的に高校に関してはHigh Tech LAとEnvironmental Charterという2校を視察団と共に訪れた。

ローンデールにあるEnvironmental Charter Schoolのキャンパスのブドウ棚。生徒たちはスナックとして実った果実を自由に食べることができる

2校とも、本来であればロサンゼルス統一学区に所属する学校だ。その「本来であれば」の意味を、今回の視察で私は初めて知ることになる。つまり、2校とも学区から切り離され、カリフォルニア州の予算を直接確保できるチャーター・ハイスクールなのだ。それまで「チャータースクール」については、保護者やコミュニティがより学校運営に直接関われる学校という程度の認識しかなかったのだが、High Tech LAのカウンセラーの説明によると、「学区に所属すると、学校経営に関する判断を下す場合は学区に打診して許可を得なければならない。また、予算も学区が州から確保した中から割り当てられる。しかし、チャータースクールは学区を飛び越して州とつながっているため、予算は州から直接割り当てられ、学校経営に関する判断も理事会が決断すればよい。学区にお伺いを立てる必要はない」ということだった。チャータースクールは、他の公立校よりもかなり自立した学校経営を実現できるということなのだ。

さて、2004年に開校したHigh Tech LAは卒業生のカレッジ進学率95%を誇る超優秀校。4年制大学の進学に関してはカリフォルニア大学(UC)とカリフォルニア州立大学(Cal State)に焦点を当てている。校長は「カリフォルニアの州立大学は非常に優秀であり、経済的にも州外に行くと学費が高くつくため、進学先のターゲットとしては州内(の公立大学)で十分だと考えています」と説明してくれた。

自由と責任

同校のプログラムの特徴としては、2人から4人のチームを組んで取り組む学年で6~7本のプロジェクト、また地域内の店舗、企業、医療施設などで働くインターンシップなどが挙げられる。大学に進学する生徒がほとんどなのになぜインターンシップが必須で課せられているのかの理由としては、UCへの進学で「課外活動に積極的に取り組んだこと」が高く評価されるからだ。同校のカウンセラーは、「大学が生徒を評価する際に、学力も含めてその生徒が高校の4年間で何をしてきたかがチェックされます。当校では、プロジェクトでの成績、インターンシップでのコミュニティへの貢献など、生徒たちの結果を可視化しやすくすることに尽力しています。通常の学区下にある高校なら、そのような他校とは違うプログラムをスタートしようとしても自分たちで決めることができないため、実現は困難だといえます。チャータースクールでは理事会に決断が委ねられており、決断と実行が容易なのです」と語る。ちなみに理事会は、元教師、保護者、地域社会のリーダーなどで構成されているそうだ。

もう1校のEnvironmental Charterもユニークな高校だった。いわゆるSDGsに力を入れた高校で、キャンパスではあらゆる果樹を栽培し、鶏を飼育し、有機飼料作りが実践されている。しかも、同校の大学合格率は97%という驚異的なもの。視察では、男女1名ずつの生徒が案内役を務めてくれたのだが、その堂々たる姿勢からは「自分たちの学校を心から誇りに思っている」ことが伝わってきた。

ロサンゼルス統一学区は全米ではニューヨーク統一学区に次ぐ規模で、学校数782校、児童生徒数は46万人。所帯が大きいほど学区の仕事量も膨大で、その分、各学校の教師や職員の負担も増えるはずだ。学区から独立してチャータースクールになれば自主的に運営して、自分たちで責任を取らなければいけないという別の苦労があるに違いないが、訪れたチャータースクールの教師たちや生徒たちは、私の目には伸び伸びと自由を謳歌しているように映ったのだった。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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