バイデン政権とは?

情報提供/ピルズベリー法律事務所

バイデン大統領は、トランプ大統領とは対照的に、パンデミック、経済的苦境および政治的分断に疲弊した米国において、団結と正常化を訴えアメリカ大統領選を制しました。バイデン大統領は、もともと右派や左派のどちらにも偏らない中道派ですが、民主党内の結束を図るために、中道派の有権者にも受け入れられる形で、いくつかの重要な進歩主義的な政策を採用しました。新政権は、「正常」への復帰に対する民意の支持を得て、妥協と調和を公約しましたが、同時に過去4年間のトランプ政権下の政策の多くを撤回する方針です。エネルギーや気候変動に対する政策から、対外通商や国際関係、インフラや金融に至るまで、重要な政策の変更が焦点となっています。

当事務所では、バイデン大統領と連邦議会が今後直面するであろういくつかの最重要課題について、ビジネス上の利益に与えうる影響を分析し、評価しました。また、以降数週間にわたり、今後の4年間にさまざまな業界が直面するであろう問題の詳細について、ガイダンスを公表する予定です。これらのガイダンスは、Election Implication Resource Center(英語)で公開する予定です。

本稿ではバイデン大統領の重要政策について以下のトピックスの概要を考察します。

新型コロナウィルス対策
エネルギー・気候変動対策
通商政策
バンキング・金融サービス
外交政策
税制改革
インフラ政策
倫理規範・政治活動規制
通信政策・規制
ギグエコノミー・ソーシャルメディアのプラットフォーム
反トラスト法・テック企業
ヘルスケア
教育

新型コロナウィルス対策

今春、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security = CARES法)が可決されてから、下院民主党リーダー・上院共和党リーダーとトランプ大統領の交渉は何度も行き詰まり、CARES法に代わる包括的合意に達せずにいました。アメリカ経済が部分的に回復しているとはいえ、米連邦準備理事会(FRB)議長ジェローム・パウエル氏を含む専門家らは、中小企業、州政府、地方政府および失業者にさらなる支援を行わなければ、景気回復の進展が止まる可能性があると警告してきました。バイデン氏は、新政権は新型コロナウィルスの蔓延を防ぐために、連邦政府による検査プログラムやマスクの着用義務化を含むあらゆる手段を検討する用意があると表明しました。公開された報道によると、経験豊富なパンデミックおよび公衆衛生の2名の専門家-オバマ政権の元エボラ対策調整官ロン・クレイン氏、元医務総監ヴィヴェック・マーシー氏-が新政権の対応を定めるうえで重要な役割を果たす可能性が高いと見られています。

バイデン氏は、ホワイトハウス入りの準備をするなか、上院多数党院内総務ミッチ・マコーネル氏(共和党・ケンタッキー州出身)が議論しているように今年のレームダック議会の間に景気刺激策の法案が通過しない限り、就任直後に景気刺激策の救済法案の通過を想定していると表明してきました。民主党議員は、5月に下院で多数決で可決された3.4兆ドルの法案(Health and Economic Recovery Omnibus Emergency Solutions Act = HEROES法)が包括的な景気刺激策パッケージのひな型となることを望んでいますが、法案制定のためには、金額面で少なくとも半分に縮小し、共和党寄りの政策とセットにしなければならない可能性が高いといえます。救済法案には、ほぼ全国民への1200ドルの給付金、失業給付の増額、中小企業向け給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)の刷新および新型コロナウィルスの検査・追跡に関する助成金が含まれる可能性が高いものの、これらの各要素がどのようにまとめられ、交渉されるか、詳細を注視する必要があります。

また、民主党は、州、地方政府に大幅な新規助成を行い、社会保障給付を200ドル上げ、学生ローン免除その他の個人・企業の保護を実施することを予定しています。この助成には、大半の共和党員が「ベイルアウト」であるとして反対している、パンデミックによる収入減を埋め合わせる直接の資金援助を含みます。これに対し、共和党は、企業側やビル所有者のパンデミックに関連する賠償等の責任を免除する立法を声高に求めています。政権移行前または新政権発足時までに共和党と民主党が合意に至るには、上記論点についてトレードオフを必要とする可能性が高いです。

バイデン氏は、アメリカ企業の支援を目的とするHEROES法を補完するため、いくつかの独自措置の概要を明らかにしました。その主な計画では、銀行の追加融資を引き出すため国防生産法(Defense Production Act)を潜在的に利用しながら、少なくとも3700億ドルの新たな支援金を用意し、中小・零細企業が利用可能な連邦政府による融資を実施することを呼びかけています。また新政権は、雇用維持・再雇用の支援金、零細企業がパンデミックに適応するための補助金を含む「リスタート・パッケージ」を通じて、再雇用促進における連邦政府の役割を拡大しようとしています。このような救済策のコストを相殺するため、新政権は、超過事業損失(Excess Business Losses)条項などのCARES法の免税措置を削減しようとするでしょう。

エネルギー・気候変動対策

バイデン氏は、再生可能エネルギーの研究開発と発電の展開を急速に拡大し、省エネ技術の開発を促進するために、2兆ドルの連邦政府による投資パッケージを提案しています。同時に新政権は、環境汚染を引き起こす産業に追加の報告義務等を課し、規則を従来以上に執行していくことで、取り締まりの強化を計画しています。この計画の実現には連邦議会の協力が不可欠なものの、米国のエネルギーシステムをゼロエミッション技術へと移行させる中で、何百万人もの雇用を創出することがこの計画の目標とされています。

投資パッケージが連邦議会で可決されれば、エネルギーインフラ業界全体で低排出ガス技術がより一層採用されることになるでしょう。本パッケージには、いくつか例を挙げると、大規模な太陽光発電や風力発電の設置、既存の不動産物件におけるエネルギー効率の向上、電気自動車を支えるインフラへの連邦政府の投資が含まれています。バイデン氏は、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにし、2030年までにすべての新しい商業ビルに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする基準を適用し、2035年までに電力部門の温室効果ガス排出量ゼロを実現することを目指しています。しかし、上院で民主党が大幅に多数を占めていないので、バイデン氏は選挙活動に提案したような変革的な気候変動法案を制定することは難しいでしょう。バイデン氏はエネルギーおよび気候変動対策関連法案については、風力発電の活発な州出身の共和党上院議員数名からの協力を得ることが可能な風力エネルギー、電池技術、エネルギー効率などに焦点を当てた法案をひとつずつ個別に可決させていくという方法を取らざるを得ないかもしれません。

主な規制上の優先事項としては、大統領令や連邦政府機関における規則作成を通して実行可能な、連邦政府による技術中立のエネルギー効率・クリーン電力基準(EECES)の設定、トランプ政権が進めた国家環境政策法(NEPA)のインフラ事業における環境アセスメント手続きを簡素化する規則弱体化の撤回、土地管理局(BLM)と連邦エネルギー規制委員会(FERC)の許可プロセスにおける環境レヴューの拡大、連邦所有地での新規石油・ガス開発の禁止などが考えられます。新政権はさらに、トランプ氏が脱退したパリ協定に復帰し、世界的な温室効果ガス排出量の抑制に向けた国際的な協調路線に回帰するために外交政策を見直し、同盟国による「国が決定する貢献」(NDC)の強化を推し進めると考えられます。これらの優先事項を実行することで、グリーンエネルギー資源だけでなく、低排出の電力会社にとっても恩恵を受けることになるでしょう。これらの政策は連邦議会からの協力がなくても実現可能であり、バイデン氏の計画の中で重要な部分となるかもしれません。

通商政策

国際貿易にとって波乱万丈の過去4年間でしたが、国際通商の分野では、バイデン氏はトランプ政権の主要な政策を維持する可能性が高いです。新型コロナウィルスからの回復を背景に、新政権の重要な焦点は、バイ・アメリカン・ルール、アメリカ企業の国内回帰、サプライチェーンの回復となるでしょう。バイデン氏は、現行のバイ・アメリカン法をより厳格に適用しつつ連邦政府による調達を拡大することを約束しました。また、中国に対する関税圧力は、譲歩が引き出されるまで継続する可能性が高いでしょう。バイデン氏は、アメリカ経済の競争力が十分に回復したと新政権が判断するまで、FTAに加入しないことを約束しており、FTA加入への懐疑的な見方は根強いままでしょう。

現在の欧州、北米、日本、韓国の同盟国との貿易摩擦を解消することが、新政権が構想する他国との連合を形成し、中国への対抗やWTO等の国際機関の改革に向けての鍵となるでしょう。その中心となるのが、通商拡大法232条に基づく関税の活用を控え、米国の貿易パートナーに救済を与えることです。このような協力関係の強化は、中国の経済活動に反撃するもう一つの手段となります。超党派の活動は、中国が名指しされていないときでも明らかに見られ、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査プロセスを強化する外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)や米国輸出管理改革法(ECRA)といった立法のトレンドは新政権のもとでも継続する可能性が高いです。バイデン氏が現在3700億ドルの中国製品に課されている通商法301条に基づく関税を緩和するか維持するかは不明です。

サプライチェーンの回復に関するバイデン氏の計画では、新政権の早い時期において、現行の貿易依存がもたらす国家安全保障上のリスクについて、100日の調査を開始することが求められています。重要な産業分野でサプライチェーンの混乱に対してより幅広い耐性を獲得することを目的とした施策のあらましが示されました。そのなかには、対象産業におけるアメリカ製品の購入を連邦政府機関に指示すること、連邦による支出・投資に条件付けること、連邦政府の備蓄拡大および国防生産法(DPA)をより積極的に活用することが含まれています。新型コロナウィルスのパンデミックによる混乱を経験することで、バイデン氏がこれらの施策を実現する原動力は、高まるばかりです。

バンキング・金融サービス

新政権の第一の優先事項は、金融セクターの規制緩和を抑制することにあるようです。たとえば、金融規制改革法(ドッド・フランク法)の規制緩和に向けたトランプ政権の取り組みの多くは、バイデン氏によって再度規制強化に向かう可能性があります。しかし、銀行の市場取引規制ルール(ボルカー・ルール)の緩和に代表される一部の金融制度改革は、超党派の指示を得て可決され、コミュニティバンクに利益をもたらし、さらには資本市場および金融サービスへの平等なアクセスを促進するという民主党の優先事項にとって重要であることから、内容に変更はないでしょう。

新政権では、金融セクターにおいて連邦政府の監視と規制が強化されるでしょう。しかしながら、共和党が上院の過半数を維持し、バイデン氏が規制当局の主要ポストに革新的なリーダーを任命できなければ、連邦政府による介入の強化は難しいかもしれません。選挙期間中、バイデン氏の金融サービスに関する提案には、連邦信用格付け機関の設立や、FRBと米国郵政公社(USPS)が運営する、合弁の連邦銀行プログラムである「FedAccounts」の創設が含まれていました。任期中に導入が予定されている連邦リアルタイム決済システムに関し、バイデン氏は、コミュニティバンクを支援するためのもう一つの戦略として、「FedNow」の実現に注力するでしょう。

民主党政権下での影響力が大きい制度改革の多くは、FRBだけでなく、米国通過監督局(Office of the Comptroller of the Currency (OCC))、米消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau (CFPB))および、米連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC))といった主要な政府機関のポストへの指名にかかっています。これらの連邦政府機関はそれぞれ、連邦の金融政策に対して大きな影響力をもっています。このことは、トランプ政権が指名した通過監督官(the Comptroller of the Currency)が、その短い在任期間中に、フィンテック支援のための重要な戦略を開始したことからもわかります。主要ポストの担当者は、主要な金融規制に大きな影響力を持ち、そして、消費者保護の強化、公正な融資慣行、および小額貸金業者に影響を与えるペイデイローン規制の復活を進めるでしょう。しかし、フィンテックの発展は両党から支持されています。そして金融業界は、金融規制がある程度厳しくなっても、引き続き新技術を積極的に導入することが望まれているといえるでしょう。

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