バイデン政権とは?

情報提供/ピルズベリー法律事務所

通信政策・規制

新政権は、米国におけるデジタルインフラの著しい発展と、高速ブロードバンドや5Gへのアクセス拡大の必要性の高まりをコントロールすることになります。同時に、通信事業者と利用者は、次世代通信システムの整合性や個人情報の取り扱いについても共通の懸念を有しています。バイデン氏は、「情報格差」対策のための投資計画については明らかにしていますが、データプライバシー問題についてはあまり詳細な発言をしていません。

バイデン氏の主な政策には、コミュニティ・コネクト・ブロードバンド助成金の資金を3倍にすることや、アメリカのブロードバンド・インフラに200億ドルを投資することなどが含まれています。民主党はまた、米国連邦通信委員会(Federal Communications Commission)のライフラインプログラム(低所得層向け補助金プログラム)の拡大やデジタル・エクイティ法(Digital Equity Act)の採択支援など、インターネットへのアクセスを拡大するための法案の改革も明言しています。中国との競争は続き、バイデン氏の下でも、将来の通信ネットワークから中国製ハードウェアは排除されるものと思われます。インフラ計画に含まれる3000億ドルの研究開発費の支出、中小企業技術革新プログラム(Small Business Innovation Research Program)の拡大および連邦政府による調達の約束は、重要技術における米国の競争力を高めるためのバイデン氏の計画の一部となっています。

データプライバシーに関しては、バイデン氏の就任後は、ガイドラインに単に従うのではなく、オンラインでのプライバシー保護の強化に向けた動きが予想されています。バイデン氏は、EUがGDPRを通じて採用したものとは異なる形で、プライバシー保護と個人情報の基準を確立する意向を表明しています。しかし、今年の夏の連邦議会での新型コロナウィルスに関連するデジタル情報の取り扱いに関する立法化の議論において、データプライバシーについて私人による提訴権があるのか、また連邦法による特定のデータ保護が抵触する州法に優先するかどうかという2つの主要な争点があることが明らかになったことからわかるように、このような法律が超党派の支持を得られる可能性はあまりありません。

ギグエコノミー・ソーシャルメディアのプラットフォーム

テクノロジー企業は、民主党政権下では、より厳しい規制環境に直面することになりそうです。IT業界とホワイトハウスとの関係は何年にもわたって緊迫していますが、バイデン氏はギグエコノミーにおける労働者の権利強化に再び焦点を当てるでしょう。

バイデン氏の政策は、カリフォルニア州議会法案5号(Assembly Bill 5)(以下AB5といいます)を全米に拡大するとしています。このAB5では、ギグワーカーが独立事業者ではなくフルタイムの従業員とみなされるかどうかを判断するための「AB5テスト」と呼ばれる基準が設定されました。基本的には、ライドシェア企業の運転手、または同様の独立事業者に依存している企業の労働者を、従業員として再分類することになります。ギグワーカーにとっては、医療保険や有給休暇を取得する権利が認められることにつながるでしょう。しかし、注目すべきは、AB5の重要な条項が、11月に可決されたカリフォルニア州の住民投票で覆されたことです。この住民投票の可決により、他の州や連邦レベルでの同様の取り組みの勢いが阻害される可能性があります。

バイデン氏は、大手ソーシャルメディア企業が有害なコンテンツに対処することを強制するためのステップとして、通信品位法(Communications Decency Act)第230条を廃止する意向を表明しました。バイデン氏は、通信品位法第230条に代わるものをいまだ明確に述べてはいません。新政権は、ソーシャルメディア規制においては基本的に自主規制というスタンスをとることで、巨大ソーシャルプラットフォームが国際フォーラムにおいて民主主義の考えに沿った行動規範をソーシャルメディアの分野で採用するよう仕向けています。その結果、コンテンツアルゴリズムの透明性と監視の強化、および連邦の規制当局に従うためのコンテンツモデレーションの強化につながるでしょう。

反トラスト法・テック企業

1月に就任したバイデン氏が引き継ぐのは、Googleに対する大型訴訟に限られませんが、その事件処理を通じて、政権の方向性を示すだけでなく、企業と公的機関との関係についての国民の理解を政治的に転換させることになるものと思われます。民主党、特にその進歩派は、この機を捉えようとするでしょう。

連邦議会では、テック企業のCEOを対象とした一連の公聴会により、テック業界を対象とした反トラスト法の制定が民主党の課題として位置づけられています。下院の反トラスト小委員会の民主党議員は、反競争的な行動に対する広範な措置を提案しています。提示された選択肢には、構造的な分離の義務化、オンライン市場で自社のサービスを競合企業よりも優遇するための差別を禁止するルール、大規模なテック企業が事業を行うことができる業種の制限などが含まれています。これらの案は、大がかりな独占禁止法を新たに制定するよりも既存の法律に手を加えることを好む共和党にとっては、おそらく俎上にも乗せられないものと思われます。バイデン氏は、これらの具体的な行動についてまだ見解を述べていませんが、新しい反トラスト法の制定については連邦議会が主導権を握る可能性が高いものと思われます。

ヘルスケア

オバマ政権の副大統領として、バイデン氏は、医療保険制度改革法(Affordable Care Act)の基礎にあるヘルスケアの理念を引き継いでいます。新政権は、連邦最高裁が係属中の事件においてその有効性を認める限り、同法の拡張を目指しています。

第一に、バイデン氏は、民間の保険会社による基本オプションを一応提供しながらも、医療保険市場にパブリック・オプション(公的保険)を追加しようとする見込みです。これは、メディケイド(低所得者用公的医療保険)の加入資格を拡大していない州に住居があり、同州が加入資格を拡大していれば対象となる低所得者を自動的にカバーするものです。第二に、医療保険制度改革法に基づく税額控除については、所得上限を撤廃し、医療保険に関する支出を世帯収入の8.5%に制限する形で拡大を目指すことが予想されます。最後に、バイデン氏は、メディケア(高齢者医療保険)について、加入最低年齢を65歳から60歳に引き下げることで適用範囲を拡大し、全体的な適用範囲の拡大と個人向け医療保険市場での保険料の引き下げを望んでいます。もっとも、これによりメディケアのコスト自体は増加することになります。

共和党がこれらのヘルスケア政策、特にパブリック・オプションに反対を表明しているため、同政策を連邦議会で可決することは大きな課題となると予想されます。しかし、これらの政策以外に、ヘルスケアの分野で、超党派的な協議につながる可能性のある分野もあります。たとえば、バイデン大統領とトランプ元大統領は、ともに処方薬価格を引き下げる計画を提唱していました。そのため、薬価交渉を禁止し将来のコスト上昇をインフレ率に連動させるという現在のメディケアに関する法規制について、その廃止の提案を支持している一部の共和党議員を説得することができるかもしれません。製薬会社は、政府の規制強化の標的となる可能性が高く、バイデン氏は、医療業界の市場集中を抑制するために競争法上の措置を行うことを提案しています。また、保険でカバーされない予想外の医療費請求をなくすことも、超党派の協議が可能となる可能性があります。

教育

教育と授業料は、民主党の予備選挙では重要な論点でしたが、2020年の選挙サイクルが終了した時点では、2人の大統領候補は、教育に関してほとんど実質的な意見を交わしていませんでした。もっとも、バイデン氏は、授業料、連邦政府の資金調達および大学の負債を包括的に改革することを公約しています。第一の焦点は、全米の学校を再開するための新型コロナウィルス検査と準備のために学区に資金を提供することです。バイデン氏は、学校の再開をサポートするために900億ドル、K-12(5歳児から高校3年生までの期間)の学校に対して別途2000億ドルの資金援助をそれぞれ行い、リモート学習がより利用しやすくなるよう推し進めることを公約しています。

また、バイデン氏は、より構造的な変革を教育部門にもたらす計画をいくつか打ち出しています。バイデン氏は、所属政党である民主党の一部の議員が望む大学授業料の無償化を否定しています。もっとも、バイデン氏は、世帯収入が12万5000ドル未満の学生を対象に、再就学を希望する労働者のためのコミュニティ・カレッジの2年間分を含め、公立の大学の授業料を無償にすることを提唱しています。新政権は、民間の教育機関を支援することを含め、職業教育に重点を置く可能性が高いです。そのために、コミュニティ・カレッジとトレーニングプログラムの授業料を2年間無償にし、職業トレーニングプログラムやコミュニティ・カレッジ施設の改修に数百億ドルの投資を行うことが予見されます。バイデン氏の政綱によると、さらに700億ドルが、HBCUと呼ばれる「歴史的黒人大学(Historically Black Colleges & Universities)」のために確保される可能性があります。大学に対する連邦政府の資金援助を拡大することに加えて、K-12教育は、バイデン氏の7550億ドルの介護関連分野への援助計画における重要な資金援助対象です。またタイトルI(公立学校への資金援助)資金を3倍にすることは、今夏の抗議活動で政治的議論の的になった人種間の教育格差への対応として、優先事項となる可能性が高いです。しかしながら、バイデン氏は、教育機関に対する公的部門の支援をどのように改革するかについては、基本的には言及を控えているため、チャーター・スクールや私立学校に対する今後の支援は不透明なままです。バイデン・サンダース協同タスクフォースの文書は、営利目的の教育機関への公的資金援助に反対を表明しています。次期教育長官が、教育経営組織(Education Management Organization)と授業料の貸与者にこれまで以上の圧力をかけることは容易に想像できます。

以上のようにバイデン陣営は幅広い政策案を有しており、米国および海外の企業はこれらの政策案の潜在的な影響を考慮する必要があるものと思われます。提案されている連邦支出の優先順位、税制改革、気候変動に対処するための規制の再編はすべて、業界に対して明確な機会と挑戦の双方を提示しています。これらの提案が進展するにつれて、企業はこれらの機会について考え、政策の策定に影響を与える努力をする必要が出てくるでしょう。

本稿の原文(英文)につきましては、The Election Is Over – Now What? をご参照ください。

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ピルズベリー法律事務所 (Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP)

ライタープロフィール

1世紀近くにわたり、日本企業の事業拡大や紛争解決に助言してきたアメリカ大手法律事務所。弁護士総数700人以上。多くの日・英バイリンガルの弁護士・スタッフが日本企業に法律サポートを提供。
Tel : 212-858-1000

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