トランプ政権が目指す大型減税法案:個人への影響

下院歳入委員会は5月12日、トランプ大統領が公約した減税措置を含む財政法案(The One, Big, Beautiful Bill)を公表しました。下院・上院の審議を経てどのような形で立法化されるかまだ予断を許しませんが、どのような税制変更が俎上に上っているのかが見えてきました。今回の記事では、個人に影響のある項目を見てみましょう。

The One, Big, Beautiful Billに含まれる個人向け減税措置

この法案には、第1期トランプ政権のTax Cuts & Jobs Act (TCJA)で行われた所得税減税措置(2025年末で期限切れ予定)の恒久化やトランプ大統領の選挙公約が含まれています。主要な個人向け減税措置を挙げると、

⚫︎TCJAで時限的に引き下げられた現在の所得税率を恒久化。

⚫︎同じくTCJAで引き上げられた現在の標準所得控除(Standard Deduction:  
2025年夫婦合算申告$30,000、単身者申告$15,000)を恒久化。加えて、2025
年から2028年(トランプ大統領の任期に相当)まで一時的に標準所得控除を
引き上げ(夫婦合算申告$2,000、単身者申告$1,000)
⚫︎高齢者の追加的標準所得控除を2025年から2028年にかけて$4,000に拡大(所得に応じた段階的縮小あり)。
⚫︎項目別所得控除(Itemized Deduction)におけるState and local tax  
 (SALT)の上限を$30,000に引き上げて恒久化(ただし、所得に応じた段階 
 的縮小あり)
⚫︎Child Tax Credit(税額控除)の上限について、2025年から2028年にかけて
 ($2,000から)$2,500に引き上げ。さらにその後は、$2,000を毎年物価上昇 
 率に連動して引き上げる
⚫︎チップ収入を2025年から2028年にかけて所得控除可能とする(高所得者を除
 く)。
⚫︎米国で組み立てられた自動車に関する自動車ローンを項目別所得控除で控除
 可能とする(2025年から2028年。所得に応じた段階的縮小あり)。
⚫︎残業代のうち上乗せ部分を2025年から2028年にかけて所得控除可能とする(高所得者を除く)。
⚫︎バイデン大統領時代のInflation Reduction Actにより導入されたクリーン・
 エナジー税額控除を2026年以降廃止。
⚫︎TCJAで引き上げられたEstate Taxの生涯非課税枠(2025年13.99百万ドル)
 を恒久化し、2026年15百万ドルとし、その後物価上昇率に連動させる。

ソーシャル・セキュリティの非課税化は含まれず

トランプ大統領の選挙公約のほとんどの項目が法案に取り入れられていますが、ソーシャル・セキュリティ給付の非課税化は法案に含まれていません。

ソーシャル・セキュリティは厳しい財政状況に直面しており、積立金は2034年前後に枯渇すると予測されています。ソーシャル・セキュリティ給付にかかる所得税はすべてこの積立金に入ることになっていますから、ソーシャル・セキュリティ給付が非課税となると、積立金の枯渇時期が早まることが懸念されていました。

今後の見通し

法案は7月に向けて下院、上院で審議され、修正が加えられる可能性があります。トランプ政権の相互関税に関する動向から目が離せない状況が続いていますが、我々の税金に直接影響がある減税法案についても注視していく必要がありそうです。

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後藤浩 (Hiroshi Goto)

後藤浩 (Hiroshi Goto)

ライタープロフィール

Goto Financial Advisory LLC 代表
東京大学経済学部卒。早稲田大学大学院経営管理研究科修士(MBA)第一生命、PwC勤務後、年金基金向け運用コンサルタント、米系資産運用会社の執行役員など25年の資産運用業界経験を有する。2023年に在米日本人のためのフィナンシャル・プランニング法人、Goto Financial Advisory LLC設立。 リタイアメント・プランニングに役立つブログ多数掲載中。 2019年よりテネシー州在住。Sister City of Nashville 理事。資格:CFA協会認定証券アナリスト、米国税理士、認定ソーシャル・セキュリティ・アナリスト

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