環境に優しい建築資材として、ヘンプ(大麻)が注目されている。
■長所は様々
ニューヨーク・タイムズによると、建材としての大麻の歴史は古代ローマまでさかのぼり、6世紀にはまだガリアと呼ばれたフランスで大麻を混ぜたモルタルの橋が造られている。米国で医療や娯楽用の大麻(使うのは葉や樹脂)解禁の動きが強まる中、今後はサステイナブル(存続可能)な建築資材としての大麻(使うのは茎)の市場が大きく成長する可能性がある。
大麻の茎の木質繊維を石灰と混ぜると、ヘンプクリートと呼ばれる断熱性の高い天然の軽量コンクリートが作れる。建材には虫やかびがつかず、防音効果があり、湿度を低く保ち、農薬も入っていない。大麻は雑草のように様々な気候の土地で繁殖し、種まきからわずか4ヶ月程度で収穫できる。トウモロコシのような産業用植物に比べ肥料は少なくて済み、化学肥料や農薬も要らず、長い根で地下水を吸い上げ酸素を循環させて土壌が改善されるため、農家にとっても利点は大きい。
大麻といっても様々な種類があり、産業用大麻には娯楽・医療用大麻(通称マリフアナ)の陶酔感を生むTHC(テトラヒドロカンナビノール)と呼ばれる成分は0.3%しか含まれない。これに対し合法化が進む大麻にはこれが20%含まれていることもある。それぞれ外観も異なり、産業用大麻は背が高く、根は地中深く広がるため、マリフアナのように屋内での水耕栽培はできず、露地植えする必要がある。種や葉は生で食べることができ、乾かして粉末にしたりつぶして油を抽出することもできる。ただし今も規制は厳しく、農家や建築業者にとって最大の障壁は麻薬のイメージが強いという点かもしれない。
■欧州が主要生産地
2014年の連邦改正農業法では、大学での研究用大麻栽培が合法化され、18年1月にはカリフォルニア州で大麻の産業利用が完全に合法化された。ニューヨーク州は現在、大麻の事業化につながる研究に1000万ドルの助成金を出しており、コーネル大学などが研究に参加している。
米国ではまだ大麻を材料に建物を造るには特別な許可が必要で、その条件は郡や州によって異なる。それでも、10年には現代の「大麻住宅」が初めてノースカロライナ州で建設され、現在はこうした家が全米に約50戸ある。
国内の産業用大麻生産量は少なく、今のところ1万エーカー未満で、一戸建て住宅に換算すると約5000戸分しかない。これに対しカナダの栽培面積はその2倍で、中国の雲南省では1万軒の農家が栽培している。
産業用大麻の生産国は、スペイン、オーストリア、ロシア、オーストラリアなど約30カ国に上り、合法に栽培できる欧州では1980年代に大麻の価値が見直され、フランスがEU最大の生産国となっている。
欧州大陸では、多くの建物で壁、屋根、床下の断熱材などとして使われている。見かけはしっくいのようだが無害で、普通のコンクリートに比べ生産に必要な熱は3分の1で済むため、炭素の排出量も少ない。
ヘンプクリートは壁材のような物なので、コンクリートのように基礎や構造材としては使えず、地面に直接置くとかびや腐敗への耐性を失うという欠点もあるが、長期的な利点は大きい。多くの地域では、高さ12フィートの壁にヘンプクリートを使うと年間通じて冷暖房なしで室内が約60°Fに保たれ、従来の建築方法より全体の環境影響度を劇的に低減できる。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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