企業数6118社、従事者総数250万人、保険掛け金総額1.1兆ドルという世界最大の保険市場である米保険業界は現在、モノのインターネット(IoT)による抜本的変革に直面しつつある。フォーブス誌によると、米国内ですでに64億台の機器が接続され、1日あたり550万台が新たに接続化されるなか、IoTはリアルタイムのデータ収集と分析によって、保険商品や業務手法に劇的な変化をもたらし始めている。
▽保険と技術の融合の第一人者
経済記者のロバート・ライス氏は、米保険大手サザランド・グローバル・サービシズ(Sutherland Global Services)のヴィック・レンジェン上席副社長にインタビューし、保険会社がモノのインターネット(IoT=Internet of Things)の活用を積極化させることで同業界がどのような影響を受けるのかを聞いた。
レンジェン氏は、保険業務と技術応用の専門家であり、技術を取り入れた保険事業モデルの開拓者かつ第一人者として知られる人物。同氏によると、保険業界はIoTによって下記5つの点で劇変すると予想される。
1.地理空間データの応用
自動車保険会社の場合、テレマティックス(テレコミュニケーションとインフォマティクスという言葉を合体させた造語で、移動体通信システムを利用して各種のサービスを車に提供することの総称)によって、速度や走行距離、ハンドル操作、ブレーキング、運転時間、運転時間帯といった各種の運転履歴データを集め、それにもとづく従量課金式保険(usage-based insurance=UBI)を提供するようになった。
保険会社にとってUBIは、保険掛け金収入を引き上げると同時に保険金支払いを抑制できるため、営業利益率の向上につながる。
将来的には、安全運転に関係する情報を運転手に提示することで、たとえば「ひょうの嵐が接近中」といった気象情報を告知することで、事故発生率を抑えることが可能となり、保険会社と保険加入者に利益をもたらすと期待される。
2.環境検知による危険予想
火災報知機や一酸化炭素検知器、あるいは産業施設での毒性気体検知、さらには地震検知といったさまざまの環境検知が多用されている。そういった検知器は今後、環境異変を検知することで危険性を予測できるようになるとみられる。
住宅保険会社ではそういった検知機能や検知データを活用することで、住宅所有者や商業建物所有者、あるいは労災保険や業務上過失責任に関し、予想される危険性を保険内容に明記できるようになり、損害発生率の低下(保険金支払い額の抑制)を図ると予想される。
3.接続化される生体計測
大企業の一部では、医療保険会社や身体装着端末メーカーと協力し、健康的な生活(運動量、心拍数、睡眠時間とその質、燃焼カロリーなどのデータを追跡して毎日記録しクラウド・ストレージに保存)をする社員に対する見返りを提供することで、社員の罹患率低下と保険掛け金抑制、医療費削減を図っている。
また、GPSや身体装着端末によって、健康障害を起こした保険金申請者の健康回復(社会復帰)の状況を追跡し、保険適用規定に沿っているかどうかを検証することで、保険金の過払いを避けるという応用方法も増えている。
4.新たな製品診断法
IoTという用語が広まる前にも、接続化された検知器は工場で使われていた。当時は、工程制御自動化(process control automation)システムとIBMのメインフレームが異常を検知した。
しかし、最近では、高性能かつ小型かつ低価格の検知器と接続網、ソフトウェアの技術進化によって、生産ラインだけでなく家電からおもちゃ、工業機械、自動車まであらゆるものに検知器が搭載され、IoTの業務活用が容易かつ広範に普及した。
その結果、メーカーから製品保険業務を外注される保険代行業者は、製品保証期間を延長できるようになっただけでなく、蓄積されたデータの解析にもとづいて、故障や機能不全が起きる前に、その予防や回避を図るサービスを提供できるようになった。
5.保険業務過程の構造変化
接続化された検知器や機器類が5年以内に210億台に増えると予想されるなか、保険会社は近い将来に、激増し続けるデータをいかに蓄積するかを考える必要に迫られる。
調査会社IDCでは、2020年までに50兆ギガバイトのデータがIoTによって生み出されると予想。その結果、それらのデータから利用可能の洞察を抽出するシステムの構築はきわめて重要となる。
そのため、保険業界はこれから、洗練されたデータ保存システムやデータ分析、ビジネス分析の専門部隊を編成し、50兆ギガバイトのデータが何を意味するのか理解することに注力するだろう。
データ解析が進化すれば、これまで不可能だった危険要素の特定や危険発生予想が可能となり、その結果、保険商品の掛け金を調整する必要が出てくる。
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