日系の強みは工場の柔軟性〜自動車各社、関税対策でも有効

日系自動車メーカーは、市場の変化に柔軟に対応できる工場を持っていることが大きな強みとなっている。

■多様な課題

ロイター通信によると、工場の生産ラインで1種類以上の車を造ることは何十年も前から行われているが、最近は業界が多様な課題に対応する上で柔軟性が不可欠になっている。消費者がセダンよりSUVを好む傾向は世界的に強まっているが、ガソリン高が続いている近年の米経済は、もっと深刻な原油高になれば小型車人気が再燃する可能性もはらんでいる。

また、国をまたいで大量の車を輸送するメーカーにとっては貿易摩擦や関税も脅威で、中国の販売減速、米国の市場低迷、貿易戦争の本格化といった懸念も市場の不透明感を強めている。その点、日産、ホンダ、トヨタといった日系メーカーは以前から柔軟な生産体制で知られ、日本国内向けの1モデルだけでは工場全体を維持できないという事情もあって、各社が互換性のある製造工程や車台の開発に重点を置いてきた。

■輸入か国内生産か

8000人以上が働く日産のテネシー州スマーナ工場では、2つの組立ラインで利益率の高いクロスオーバー「ローグ」を含むSUV3種と乗用車3種の計6モデルを生産する。部品の準備ではトロリーが通過した時に緑か青の光がついた物を棚から取り出す「pick to the light」システムを導入して、どんなモデルを造っていても適切な部品が手に入るようにしている。

両ラインの生産ペースは1時間当たり60台で、工場は2017年に62万3000台を生産。稼働率は97%を超えた。現在も稼働率は90%以上となっている。採算を取るには80%以上の稼働率を維持する必要があり、日産は17年、70カ国に計10万台を輸出してスマーナの生産ペースを保った。

今も米国で販売しているローグのほとんどは日本と韓国から輸入しているが、 トランプ政権が発動をちらつかせる25%の輸入関税は、18年1〜9月に米国で販売した31万台のローグの3分の2を輸入した日産のような企業にとっては大打撃となる。それでも、供給チェーンの大きな混乱に直面した時、今輸入しているローグの米国生産は可能かという質問に、北米日産トップのデニス・ル・ヴォット氏は 「確実にできる」と答えている。

■細やかな調整

ただし、1つの生産ラインを使ってさまざまなボディスタイルの車を造るには、車の設計から溶接・組み立て装置の構築に及ぶ各部門の細やかな調整が必要になる。

ホンダのインディアナ州グリーンズバーグ工場では、08年に「シビック」セダン、のちに高級車アキュラ部門の小型セダンの生産を開始し、17年にはセダンの販売減速、SUVの需要上昇に伴い小型SUV「CR-V」の生産を加えた。CR-Vとシビックは同じラインで組み立てられるよう設計されていたが、CR-Vのテイルゲート(後部あおり)にはより大きな金属材料が必要で溶接カ所も多いため、ボンネットとトランクを一緒に溶接していたシビックと同じ方式は使えないことが分かった。

CR-Vのためにまったく別の溶接ラインを作るにはコストがかかりすぎ場所もなかったため、結局ボンネットの溶接をシビックのトランクとCR-Vのテイルゲート・ラインから分離し、溶接ロボットを10台増やして設定を変更することで対応したという。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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