味の素は、同社を代表するうま味調味料「味の素」の主成分であるグルタミン酸ナトリウム(MSG)が安全で、これで塩分の摂取が抑えられれば健康に良い可能性さえあることを米国人に理解させるため、1000万ドルを投じて3年間の宣伝キャンペーンを展開している。
■代々続く偽ニュース
ウォールストリート・ジャーナルによると、米国ではMSGを有害と考える人が多く、「MSG不使用」を掲げて安全性を強調するレストランや加工食品も多い。しかし味の素によると、一度に大量に食べるのでなければMSGに危険性はなく、西井孝明社長は「危険というのは米消費者の間で代々受け継がれたフェイクニュースだということを伝えたい」と語る。
MSGは、1908年に旧東京帝国大学の池田菊苗教授が昆布のだし汁などから発見したうま味成分で、その直後に「味の素」が商品化され、同社は1917年にニューヨークに出店している。現在は多くの大手食品会社と取り引きがあり、米国ではアイオワ州の工場でポテトチップスやチキンヌードルスープといった食品に使うMGSを作っている。
世界のMSG市場における味の素のシェアは20%。同社によると、2018年のMSG世界消費量は326万トンで、10年から23%増加している。連邦食品医薬品局(FDA)はMSGを「一般的に安全な食品」と分類しており、平均的な米国人は1日約0.5グラムのMSGを摂取していると推定される。それでも国際食品情報協議会(IFIC)によると、米国人の10人に4人はMSGを意識的に避けている。
■うま味と絡めイメージ向上
同社のキャンペーンでは、MSGの利点を説明したスポンサー記事を近くバズフィードに掲載するほか、栄養士やシェフを対象に試食会を開き、MSGを入れる前と後のチキンスープの食べ比べなども行う。人の舌にはうま味受容体(リセプター)があるという研究結果が発表されて以降、うま味という言葉は米国の食通にも理解されるようになっており、同社はうま味とつなげてMSGのイメージを改善したいと考えている。
味の素によると、MSGはトマトやチーズといった自然の食品に含まれるうま味成分の人工版であり、まったく同じ物だという。MSGの問題は、中国料理を食べた後にしびれと動悸を感じた1人の医師が、原因はMSGではないかと指摘する書簡を医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに送ったことから始まった。1968年に同誌が「中国料理店症候群(Chinese restaurant syndrome)」と命名して書簡を掲載するとメディアや消費者が反応し、米国中のレストランが店頭に「No MSG」の貼り紙をし始めた。
食の歴史家サラ・ローマン氏は「MSGの問題は常に中国料理との関連で語られ、米国の加工食品と絡めて議論されることは決してなかった」と前置きしながら「問題はひとつまみのMSGではなく、大きく根深い外国人嫌いだ」と指摘する。西井社長も、当時はアジア人全体への偏見があったのではないかと推測する。
一方、ジョージタウン大学で日本史と日本文化を教えるジョーダン・サンド教授は、60~70年代は人工甘味料ががんと関連付けられるなど、多くの食品添加物や化学品への反感が高まっていたと指摘する。
西井社長は、消費者の考え方は徐々に改善しているという同社の調査結果を紹介しながら「米国人は、MSGは嫌いといいながらたくさん食べ続けている。健康的な食べ物という知識はあるのにそう振る舞っていないだけ」と話した。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
ビットコイン半減は価格にいかに影響するのか 〜 最高値更新から乱高下、次の半減期が目前に
-
2024年4月22日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
ボルティモアの橋崩落、輸出・小売業者に影響
-
米国のMBA課程、人工知能分野の教育を積極化 〜 会社で求められる技能に学生側も関心を強める
-
2024年4月18日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
テスラ、急速充電網を開放~EV普及の節目となるか
-
2024年4月15日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
EV生産コスト、27年にはガソリン車より安く~ガートナーが予想
-
人間の労働力の方が人工知能より安価 〜 MITの研究、雇用機会の大部分は人工知能にまだ奪われないと結論
-
ドローン配送に現実味~運用範囲広がる
-
アマゾンや小売大手ら、頻発する返金詐欺で巨額の損害 〜 詐欺集団ら、ティックトックで協力購入者たちを募集
-
2024年4月1日 アメリカ発ニュース, 世界のニュース, 自動車関連
中国の自動車メーカー、慣行覆しEV生産を迅速化
-
2024年3月28日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
ウェイモ、テキサス州で社員向けロボタクシー運行