店舗の閉鎖が続く米国のショッピングセンター業界で、一部のモール・オーナーや小売店が顔認識システムの使用を拡大している。
■匿名でデータ分析
ウォールストリート・ジャーナルによると、現在の顔認識システムは、入店時に客の名前が分かり、購入商品を調べて再来を促すための売り込みまでできる水準に達している。しかしプライバシー問題があるため、業界は客の名前を特定しないまま顔の特徴や個人の移動経路を調べるといった技術を使っている。その情報を基に、人工知能(AI)を使って客の動きのパターン、店員の振る舞い、陳列の仕方やマーケティングに対する消費者の反応などを判断している。
カリフォルニア、コロラド、イリノイ州に計80件のショッピングセンターを所有するニューマーク・メリル(NewMark Merrill)は、加州サウザンドオークスのモール「Janss Marketplace」で顔認識技術を導入。サンディー・シーガルCEOは「客が誰か、彼らがショッピングセンター内で寄った場所やそこで過ごして時間を正確に認識する機能がほしい。目標はサービスやサポートの改善であり、プライバシーの侵害は最も避けたい」と話している。
■客の表情で広告効果を判断
消費者の好みの急速な変化やeコマースの拡大に対応するため、ショッピングセンターのオーナーが使っている最新技術の1つがAIだ。これを使って集積データから消費者の行動を深く理解し、実店舗の価値を引き上げたいと考えている。
モールのオーナーや小売店が、携帯電話アプリを通じて集まるデータから客の住む場所を特定し始めたのは3年ほど前で、これは客の所得レベルや広告の配布地区の判断などに役立った。
顔の認証は、たとえ匿名であってもデータの分析力を高める結果になる。アマゾンのクラウド電産部門アマゾン・ウェブ・サービシズやインテルといった会社は、ディスプレイや商品を見た客の顔を分析して、好感を持ったか、関心がないかなどを見分ける技術を販売しており、これを使えば総合的にどの商品や広告が受けているかの理解に役立つ。英国のスプリングボード・リサーチも、既存の監 視カメラと接続して、来店する人や車を匿名で追跡し、入った店、滞在時間、退店時間を記録する技術を販売している。
■抵抗が強い米消費者
監視への抵抗が少ない中国では、薬局、スーパー、レストランなどで客を特定する顔認識技術が導入されている。ラスベガスのAI技術開発会社リマーク・ホールディングス(Remark Holdings)のタオ・カイシンCEOは「便利さはプライバシー保護に勝る」と考えており、同社の取引先は顧客の追跡や特典プログラムへの登録のためにデータを使っている。
顔認識技術導入を支持する人々は、ショッピングセンターのセキュリティ向上や万引き犯の特定にも役立つと見ており、中国では2018年、香港の著名芸能人らが出演したコンサートで警察がこの技術を使って容疑者を逮捕した例もあった。
しかし米国では公共の場での使用には反発が強く、現在レストランで試験導入されているリマークの顔認識技術は、顔のスキャンやデータ保存を受け入れた人だけを対象にするオプトイン方式だ。今のところ、顔認証技術の導入に関して企業に透明性などを厳しく求める連邦法はない。 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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