トロント、カナダのシリコン・バレーに変貌 ~ 米技術大手らが続々と進出し事業を拡張

カナダ最大の都市トロントが技術集積都市に変貌している。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、多くの米技術会社が技術人材を求めてカナダに進出している。トロントがカナダのシリコン・バレーと化す背景には、技術人材の豊富さと技術者年俸の安さ、そして米移民政策強化という要因がある。

▽トロントに投資するインテルやウーバー、グーグルら

人口640万人のトロントには昨今、米技術大手らの投資があいついでいる。インテル(Intel)は、グラフィック・チップ研究所をトロントに開設する計画を最 近に発表し、ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)は次世代車向け技術開発施設をトロントに開ける計画を進めている。

そのほか、アルファベット(Alphabet)やマイクロソフト(Microsoft)、アマゾン(Amazon)も、トロントに研究&開発施設をすでに開けている。

アルファベット傘下のグーグルは、トロント大学が主導するヴェクター研究所(Vector Institute)に380万ドルを投資する計画を明らかにしたほか、大規模のスマート都市事業「サイドウォーク・ラブズ(Sidewalk Labs)」をトロントで推進中だ。

さらに、シリコン・バレー銀行は、しばらく前まではシアトルやボストンを経由してカナダに投資していたが、現在では、トロントに拠点をみずからかまえている。

▽技術人材の豊富さと人件費の安さが魅力

米大手らがトロントに進出する理由の一つは、技術人材の豊富さだ。

カナダ政府は現在、査証申請の審査を迅速化する制度を整備し、優秀な技術人材の流入を促進している。米政府がトランプ大統領の意向によって移民や外国人労働力の流入を大幅に減らす政策を実施していることも手伝って、カナダへの人材流入が激増している。特に技術人材ではその傾向が強い。

また、技術人材の雇用コストが低いことも技術人材増加の一因だ。シリコン・バレーの人件費にくらべるとはるかに安い。トロントでは、技術職全体の平均年俸が約74,000ドルだ。たとえば、プログラマーの平均年俸は7万1000ドルだ。それに対しシリコン・バレーでは、技術職全体の平均年俸がトロントの約2倍だ。

▽シリコン・バレーとトロントの北米2拠点体制

ただ、米技術大手らは米国を放棄してカナダに乗り換えようとしているわけではない。シリコン・バレーとの連携を強化しながら、第二の技術拠点としてトロントを利用しているのが実態だ。

外国人採用規制によって優秀な技術者をシリコン・バレーで雇えない場合に、トロントの施設で採用することで人材を確保し、シリコン・バレーとトロントで遠隔協業を実行するといった対応策もいまでは一般的だ。

その結果、シリコン・バレーとトロントは緊密さを強めている。それを裏付けるのが、トロントとサンフランシスコ間の旅客便の増加だ。同路線に就航する航空会社らは過去2年間に139便も増やした。

▽知財権を米企業に取られる懸念

その一方で多くのカナダ人は、米技術大手らが資金力にものを言わせて、地元会社を追いやるのではと懸念している。それを象徴するのが知的財産権だ。

携帯通信技術を開発するブラックベリー(カナダ拠点)の元CEOジム・バルスィリー 氏は、トロントを中心としたカナダ国内の研究者たちが開発した人工知能技術や音声&画像認識技術、自動運転車(autonomous vehicle=AV)技術の特許や知財からカナダが利益をほとんど得ていない実情に警鐘を鳴らす。その理由は、それらの技術者の雇用主が米技術大手だからだ。

知財権専門弁護士のジム・ヒントン氏によると、米特許商標庁(United States Patent and Trademark Office=USPTO)にカナダ人が出願した機械学習関連特許1600件のうち70%が外国企業(カナダ以外の国)によって保有されている。

▽セールスフォースとアップダイレクトもカナダ事業を拡張

それでもトロントへの投資熱は強まる一方だ。カナダ政府もそれを助長している。

カナダのジャスティン・トルドー首相は、2018年にサンフランシスコを訪問した際に、CRM(顧客関係管理)ソフトウェア大手セールスフォースが向こう5年間に20億ドルをカナダに投資すると発表した。

また、業務用アプリケーションのオンライン・ストアーを構築して運営するアップダイレクト(AppDirect)は、カナダでの事業拡張にともなって300人を追加雇用すると発表している。

スタティスティクス・カナダによると、カナダの情報通信技術(ICT)市場への投資額は2017年から2018年に21%増を記録した。

▽カナダ産の新興企業ショッピファイ

それらの投資の大部分は米技術大手らによって占められる。カナダ国内から巨大企業に成長した会社は皆無に近い。

数少ない成功例の一つは、オタワ拠点の電子商取引新興企業ショッピファイ (Shopify)だ。ニューヨーク株式取引所に上場する同社の時価総額は約400億ドル。

同社のハーリー・フィンケルスタイン最高執行責任者は、カナダにとどまったことで、激しい技術人材獲得競争に巻き込まれずにすんだことが成長できた要因の一つ、と話す。湾岸地域(サンフランシスコ湾岸)に拠点を出していれば、技術人材争奪戦に敗北し、現在の規模まで成長できなかった可能性がある。

【https://www.wsj.com/articles/silicon-valley-looks-north-as-tech-giants-expand-in-toronto-11566054001】 (U.S. Frontline News, Inc.社提供)

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

最近のニュース速報

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 今年、UCを卒業するニナは大学で上級の日本語クラスを取っていた。どんな授業内容か、課題には...
  2. ニューヨーク風景 アメリカにある程度、あるいは長年住んでいる人なら分かると思うが、外国である...
  3. 広大な「バッファロー狩りの断崖」。かつて壮絶な狩猟が行われていたことが想像できないほど、 現在は穏...
  4. ©Kevin Baird/Flickr LOHASの聖地 Boulder, Colorad...
  5. アメリカ在住者で子どもがいる方なら「イマージョンプログラム」という言葉を聞いたことがあるか...
  6. 2024年2月9日

    劣化する命、育つ命
    フローレンス 誰もが年を取る。アンチエイジングに積極的に取り組まれている方はそれなりの成果が...
  7. 長さ8キロ、幅1キロの面積を持つミグアシャ国立公園は、脊椎動物の化石が埋まった岩層を保護するために...
  8. 本稿は、特に日系企業で1年を通して米国に滞在する駐在員が連邦税務申告書「Form 1040...
ページ上部へ戻る