自動運転技術開発の新興企業ニューロ(Nuro、本社カリフォルニア州)は、近くに生鮮食品店がない「フード・デザート(食料の砂漠地帯)」と呼ばれる地域の住民に自動運転車(AV)を使って新鮮な食品を届ける試みを進めている。
■技術をツールに
オートモーティブ・ニュースによると、テキサス州ヒューストンの第3区(サードウォード)と呼ばれる地区は、進入ランプも含めて幅が19車線分もある高速道路ができたために地域が分断され、片側にスーパーマーケットがあるにもかかわらず、向かい側はファストフード店ばかり多くて住民の10人に4人以上が肥満という状態だ。地域には車を簡単に利用できない住民が多いという事情もあり、スーパーや新鮮な食品が遠い存在になってしまった。
ニューロは、2019年にヒューストンに実験拠点を開設して以来、地元のフードバンクと協力してサードウォードなどに自動運転車(AV)で新鮮で健康的な食品を届けている。同社のマシュー・リプカ政策責任者は「ここには深刻な不平等の問題、生活水準の問題があり、国内で最近注目されている人種の遺産を考え合わせると問題が一層際立ってくる」 と話している。市保健局によると、ヒューストン市民の平均寿命は最富裕層と最貧困層では8年の差がある。
多くのAV開発企業は、障害者に移動の自由を提供したり、低所得地域の住民を高賃金の仕事に結びつけるなど、有益かつ強力な新しいツール(手段)として自社技術を売り込んできた。ニューロの取り組みは、AV企業がそうした長期的な公約を実現するために初めて起こした具体的な行動の1つといえる。
■独特な立場
ニューロは20年6~8月、ヒューストン地区で数百食分の食料を配達した。トヨタの「プリウス」を改造した自動運転のテスト車両で、フードバンクから郵便番号別で30地域の住民に食事や食料を届けた。
新型コロナウイルスの流行が始まって以来、ほかのAV企業も自社の車を活用して食料配達など同様の支援をしているが、ニューロは長期的な取り組みを考えており、それを実行できる独特な立場にある。というのも、ヒューストンではプリウスを使っているが、独自開発のプロトタイプ車両「R2」は配達専用に設計されているため人が乗るスペースがなく、AVとしては初めて連邦政府から自動車安全基準の適用除外を認められた。この適用除外によって同社は2年間で最大5000台の「R2」の配備を許可されており、最終的にはヒューストン以外のフード・デザートにも「R2」で生鮮食品を届けることができる。
農務省経済調査局によると、米国では人口の約17.7%に相当する約5440万人がスーパーから遠い低所得地域に住んでいる。都市部では、低所得地区の居住者の少なくとも3分の1が最寄りのスーパーから0.5マイル以上離れた場所に住み、田舎だと10マイル以上離れて住んでいる。また、米世帯の9.2%は車を持っていない。
現在、ニューロの車両は規制の適用除外によって走行速度を時速25マイルに制限されており、この速度でも700万人の低所得者に配達できる見通しだが、時速45マイルになれば2倍の数の「食料砂漠」住民に配達が可能と見込まれる。また、ニューロのAVは小型のため、配達コストは多くの消費者が食料品の配達で支払っている10~20ドルより安くなるという。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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