電気自動車(EV)メーカーのテスラはこのほど、車載ソフトウェアの新バージョン「フル・セルフドライビング(Full Self Driving)」を発表した。試験版で対象者は限定されているが、「完全自動運転」を思わせる名称はドライバーの誤解を招きかねないため、規制当局の運輸省道路交通安全局(NHTSA)は「注視しており、安全上のリスクがあれば国民を守る準備はできている」と述べた。
■年内には本格リリース
ロイター通信によると、テスラが新ソフトのベータ版(試験版)を発表したのは20日。「注意深い熟練の」ドライバー向け(人数は不明)にリリースしたという。受け取ったドライバーの一部は早速、夜の公道をテスラ車が自動運転で走っているように見える動画をツイッターに投稿し始めた。
男性2人組の投稿者は、車が自動でインジケーターを設定し、車線の表示が明確でない道でも走る様子に興奮して「車は文字通りすべてを見ているぞ」と説明している。運転席の男性はハンドルを握っていない。
テスラはソフトのアップデートを伝える説明で、システムは「最悪の場合に間違ったことをするかもしれない」と断り、ドライバーにハンドルを握って特別な注意を払うよう促している。2人の投稿者はその説明の写真も投稿した。
イーロン・マスクCEOは最近の決算発表で、ソフトの新バージョンについて「年内には広くリリースする予定で、データ収集量が増えるのに伴いシステムはより堅牢になる」と説明した。
NHTSAは7月、同局の特別事故調査班が「事故発生時に何らかの先進運転支援システム(ADAS)が使われていたと考えられる19件のテスラ車関連事故を調査している」と発表した。今回の新版ソフト発表に関しては「既存の運転支援システムを拡張したテスラの新機能について説明を受けた。当局はこれを注意深く監視し、安全上の不当なリスクから国民を守る行動をとることをためらわない」との声明を出した。
■業界からは批判
マスクCEOは何年も前から、テスラ車に自動運転機能を提供すると約束しているが、自ら設定した期限をたびたび逃してきた。
研究者、規制当局、保険会社などは、真の自動運転が実現するのはまだ何年も先で、その技術は数年前の業界予想よりも複雑だとみている。彼らはまた、テスラが同社の半自動運転システムを「オートパイロット(Autopilot)」と呼んでいることに関し、誤解を招いて危険と批判する。
フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)、ウェイモなどが加盟する自動運転技術の企業連合「自動運転車教育パートナーズ(PAVE)」も「公道試験には重大な責任が伴い、訓練を受けていない消費者を使って公道でベータ版ソフトウェアを検証することは危険で、既存の指針や業界の規範に沿わない」と、テスラのやり方を批判している。
「オートパイロット」やその他のADASは、限られた状況、一般的には高速道路でステアリング(ハンドル操作)、加速、減速の支援を提供する技術を指す。テスラはウェブサイトで、新バージョンを「一般道における自動ハンドル操作」と説明する一方、システムはドライバーの積極的な監視を必要とし、車が自動運転車(AV)になる訳ではないと断っている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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