昨今、アメリカ各州で大麻の規制緩和が進んでいる。直近では2021年3月末、ニューヨーク州で娯楽用のマリファナの使用が合法化され話題となった。隣国カナダでは既に完全に合法化されており、今後米国でも更に法整備が進んでいくだろう。
「最近CBD製品を街でよく見かけるけれど、そもそもCBDって何ですか?」「会社の拠点のある州で大麻が合法になりました。会社での使用も許可する必要があるのでしょうか?」など被雇用者、雇用主、ともに疑問があるのではないかと思う。大麻合法化が与える職場への影響を解説する。
1. 大麻とは
「マリファナ」「ウィード」「CBD」、、、様々な呼称を耳にするけどいまいちよくわからない、そんな方も多いのではないだろうか。日本語では「大麻」とひとくくりにしがちだが、米国ではそれぞれ異なるものとして法律が制定されているので、違いを理解しておいて損はない。それぞれの言葉が何を指すのか、改めてまとめてみる。
カナビス(Cannabis)植物分類上の大麻草を総称する英単語。後述する「マリファナ」「ヘンプ」共に「カナビス」に含まれる。
マリファナ(Marijuana)精神作用・陶酔作用性の高いTHCを多く含む。(含有量0.3%以上)主に、娯楽用に使用される。米国メキシコ系移民が使うスペイン語「marihuana」が語源。この「マリファナ」が昨今の議論の対象であり、本記事の焦点。
ヘンプ(Hemp)精神作用・陶酔作用性の高いTHCをほとんど含まない。(含有量0.3%以下)ヨーロッパにて繊維や種子を利用するための大麻がヘンプと呼ばれていたことが語源。 食品や美容用品、衣類や塗料などの工業用に使用されており、例えば日本の七味にも麻の実(ヘンプシード)が含まれている。米国では連邦レベルならび50州で合法。
ウィード(Weed))もともと雑草を指す英単語。1980年代後半から若者がマリファナを指して使用するようになった俗語。ウィード以外にも、同様のスラングは多数存在する。(Pot, Herbなど)
CBD(カンナビジオール)ヘンプから抽出される成分。2018年のヘンプ栽培の規制解除およびCBDの規制緩和を受けて市場が爆発的に拡大。CBD入りの食品や、ボディーオイル、サプリメントなど様々な商品が存在する。日本でも合法であり、人体への健康上のメリットが近年注目を集めている。
2. 大麻に関するアメリカの法律
法律について話する際には、アメリカには国の定める連邦法と、州の定める州法が存在する。それぞれどのような内容になっているかを見てみたい。
連邦法
連邦法では2021年6月現在、マリファナの使用はいかなる用途であっても禁止されている。
州法
2021年6月現在、以下16州+ワシントンDCにて完全に合法(医療用・娯楽用ともに)、36州が医療用の使用が合法となっている。・アラスカ ・アリゾナ ・イリノイ・オレゴン・カリフォルニア・コロラド・ニュ−ジャージー・ニュ−ジャージー ・ニューヨーク・サウスダコタ・バーモント・マサチューセッツ・ミシガン・メイン・モンタナ・ワシントン
どちらの法が適応される?
「連邦法と州法、矛盾しているじゃないか!」そんな声も聞こえてきそうだが、矛盾しているのが今のアメリカ。それが故に様々な論争が起きていたり、企業が対応に困っている。
ただ、連邦政府は2020年12月に規制権限を州に委ねることを公式に発表している。つまり基本的にあなたやあなたの会社が籍をおく州の法律が適応されると考えていいだろう。
ただ例外もあります。例えば、カリフォルニア州内の国立公園にいるとしよう。カリフォルニアは州法でマリファナを合法化しているが、国立公園は連邦政府の管轄下であり、マリファナの使用は違法となる。他にも米軍基地や国が管理する建物も同様だ。
3. 雇用主の対応
日々変化する米国の大麻事情。上記の通り、国と州が足並みが揃っていないこともあり、何をもって正とするか断言しきれない側面もある。対応を決めかねている企業は以下を参考の上、必要に応じ担当の弁護士にご相談してはいかがだろうか。
就業規則
就業規則(Employee Handbook)を確認し、大麻の使用関して明文化されていない場合は改定の必要があるだろう。
法で許可されている=使用を承諾しなければいけない、ということでは決してない。企業には依然として、娯楽用の使用を禁止する権利がある。これは、「飲酒は法律で許可されているが、会社での飲酒や酔っ払った状態での出社は禁止」というルールと同様だと考えるとイメージが湧きやすいだろう。
ドラッグテストポリシー
就業規則とともに、所在地のドラッグテスト実施に関する法律や条令に関しても見直すことも勧める。
例えばネバダ州やニューヨーク市では2020年から、雇用前の薬物検査におけるマリファナの陽性反応の結果を基に採用の合否を決定することを禁止した。またカリフォルニア州など、雇用後の抜き打ちの薬物検査は禁止としている州も存在する。(共に、安全上必須とされる業界や職種は除く)人権やプライバシー保護の観点からも、こういった動きは加速していくかもしれない。企業は、拠点を置く自治体のルールに細心の注意を払うことが求められる。
解雇
基本的には、就業規則(Employee Handbook)に反する従業員の解雇は問題はないだろう。例えばマリファナ使用が合法な州において、社員の方がドラッグテストの結果に陽性反応が出たとしよう。州によっては、それがたとえ医療目的かつ職場以外のプライベートな時間での使用によるものであったとしても、処罰の対象としていいケースもある。
ただ法で許可されてはいる以上、陽性反応が出たから即解雇という運用は、今後は避けた方が良いと言える。不当解雇だという印象を与え、ひいては裁判につながることのないよう、慎重に対処することが好ましい。
(STS Career提供)
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