人材資源管理に関する5つの課題と解決策 ~ 2022年は労働環境変化への対応が重要に

過去18ヵ月間にコーヴィッド19(Covid-19)や社会情勢、技術進化が従来を大きく変え、それにともなって、特に職場と人材資源(HR)管理が激変した。また、「大量退職(Great Resignation)」という社会現象も起き、人材の発掘と採用、維持が非常に困難になっている。ベネフィッツプロ誌によると、2022年は、人材獲得とHR管理にとって課題が凝縮した年になる可能性が高く、その代表として次の5つが挙げられる。本稿では、その5つの課題とそれぞれの解決策について前編と後編に分けて紹介する。

1.従業員との関係良好化

会社と従業員の関係をいかに良好にするかはパンデミック前からある課題の一つであり、大量退職という潮流によって、人材の発掘と維持の重要性はさらに強まっている。会社との関係が良い従業員は、仕事に対して前向きで生産性が高いが、そうでない従業員は、否定的かつ消極的で、組織の機能性と生産を下げる原因となり、成長を妨げる。

そのため、HR部署は、どの従業員が後者なのかをまず見きわめる必要がある。会社との関係が悪い従業員たちの理由はさまざまだ。自分に与えられた職務に満足していない場合や人間関係の悪化、給与の不満が一般的だ。そのほか、パンデミックになってからは職場の安全性や精神衛生環境に不満を抱く従業員が増えている。

したがって、HR部署は、因果関係を特定して、会社にとって必要な人材が離職しないよう、必要な措置をとる必要がある。昨今の場合、健康管理ソリューションをはじめとする各種の健康維持支援策を従業員らに提供することが効果的な解決策の一つだ。2022年はそういった福利厚生の整備がおもな動向の一つになると予想される。

2.職能再開発と職能向上

パンデミックが始まって以来、多くの会社では、特定の職能を持つ新たな人材を雇う代わりに、既存従業員の職能再開発(reskilling)と職能向上(upskilling)に注力する動きが強まった。

パンデミックによって事業モデルや業務手法の大きな変更または調整を強いられる会社が激増したなか、従業員に求める職能も変わった。雇用主らは、そういった職能のない従業員を解雇するのではなく、職能再開発と職能向上を促進するオンライン研修を提供することで、労働力を維持しながら人材育成に重点を置くようになった。

そのため、HR予算を増やす会社は増えている。アマゾンやPwC、ホーム・ディーポといった大企業では、各種のデジタル職能研修制度の整備やソリューション群の提示を大幅に拡充するために数十億ドルを投資している。

そういった対策は、職業または職種に関する長期的な新たな道筋と機会を既存従業員らに提示し、会社と従業員の関係も高め、貴重な新しい才能の再発掘と維持にも役立っている。

3.遠隔労働の継続に備えた対応

ハイブリッド労働(遠隔労働と出勤労働の混合)は、パンデミックを受けた必要性にせまられて浸透したが、現在、パンデミック収束後でもその一部が定着して継続するとみられる。

調査会社ガートナーによると、2022年には世界の全労働者の31%が完全遠隔労働またはハイブリッド労働に移行すると予想される。米国は分散労働がもっとも進むとみられ、全労働者の53%が完全遠隔労働またはハイブリッド労働で働くようになる見込みだ。

多くの会社は、基本的に全従業員の出勤再開を望んでいるが、従業員の多くはそれを拒否している。そのため、雇用主は、分散労働の環境整備をさらに進めると同時に、生産性を維持し、各部署および各班の出勤組と遠隔組の仮想協業を効率化し、あらゆる均衡をとる必要がある。

いわゆるズーム疲れや遠隔組の疎外感、あるいは、末端セキュリティー(遠隔労働者たち会社の通信)の脆弱性、仕事に必要な重要データのオンライン・アクセス可能化および共有化といった課題はすでに表面化している。そのため、雇用側は、続々と市場投入される各種の分散労働向けデジタル・ツール群のなかから自社にとって最適のシステムやアプリケーション、プラットフォームを特定して迅速に浸透させることが2022年にさらに求められる。(後編に続く)

4.人材採用に関する課題

パンデミックによって人生を見つめ直す人が増えたことから、「働くために生きる」から「生きるために働く」への大きな意識変革が顕在化した。大量退職(GreatResignation)という社会現象の背景もそこにある。

多くの人は、家族や友人、趣味に費やす時間を増やし、その結果、求人倍率は大幅に上がり、優秀な人材の確保が非常に難しくなった。

そのため、各部署の人材採用者やHR部署では、技術ソリューション群を活用することでその課題に取り組んでおり、その動きは2022年にさらに顕著になる。

多くの求職者は現在、会社が従業員を大切にすることや勤務体制の柔軟性に重点を置くようになたった。それと同時に、人材採用過程の柔軟性と合理化もパンデミック前より圧倒的に要求されている。したがって、求職側が何を重視しているかを正しく認識し、それらを提示するとともに、採用過程を簡潔化(簡便化)することがこれからさらに重要になる。

その解決策は人工知能の活用だ。人材採用の過程では、候補者の絞り込みにおいて人工知能の活用が数年前から浸透し始めた。2022年にはそれがさらに加速する。なるべく手間のかからない候補者絞り込みを高精度で実現するには人工知能の活用が欠かせない。そこに動画面接といった柔軟性を加味することで、人材確保の成功率を高めることは可能だ。

5.企業文化

言うまでもなく、競争において会社の真の優位性は人材によってささえられる。優秀な人材をひきつけて維持することが会社にとってもっとも重要だ。そのためには、優秀な人材から求められる会社になる企業文化を醸成しなければならない。機械やソフトウェアといった事業資源は多くの会社が同じものを使えるが、同じ人材を使うことはできない。企業文化はきわめて重要な差別化要因だ。

企業文化はさまざまの要因を反映して進化し変化する。普遍的な部分があるのはもちろんだが、それを土台として構築された文化の一部は頻繁に変わる。パンデミックは直近の最大要因だ。

シリコン・バレーでは、職場での雑談や社交(交流)が発想力や創造力を醸成するという考えのもと、壁や仕切りのない空間設計やたくさんの白板の設置、遊び心あふれる部屋、喫茶空間、瞑想部屋が伝統的職場ではありえないほど充実している。そういったシリコン・バレー企業らは現在、ほぼすべての専門職をオンライン化し、なかには遠隔労働恒久化を決めたところもある。

つまり、パンデミック前の企業文化がうまくいっていたからと言って、パンデミック後にもそれがうまく機能し続けるとはかぎらない、ということだ。HR部署はしたがって、分散労働が定着するなかで多種多様の労働力をいかに団結させて高い生産性を実現する環境を整備できるのか、これからさらに問われることになる。

▽教訓から学び成果を出す年になる

新型コロナウイルスは2020年中盤まで未知の脅威だったが、2022年の現在、2年近い経験を経て、変異株が流行しようともわれわれはパンデミックのなかでいかに前進できるかを示す地図を手にした。

多くのHR担当者らは、パンデミック初期に間違った意思決定をくだしただろうが、そこから多くの教訓を学んだはずだ。2022年は、それらの教訓と検証済みのさまざまの対策、措置、手法、それに新たな技術ソリューション群を活用して成果を出す年になるだろう。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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