一部の米企業は、サプライチェーンの耐性を高めるため海外の生産拠点を自国に近づける「ニアショアリング」戦略を進めているが、課題に直面している。
■中国に対抗するのは無理
ウォールストリート・ジャーナルによると、調達先をアジア太平洋地域からメキシコや中南米へ移すことを検討している米国の輸入業者は、適切な原材料、生産品質、部品の調達ネットワークを持つサプライヤーを見つけられず苦労している。
調査会社ガートナーで企業に供給網づくりを助言しているカマラ・ラマン副社長は「基本部品から高度なコンポーネントまで、あらゆる種類の土台の唯一最大の市場が中国であることは否定できない。こうしたエコシステム(業界体系)は世界中のどの国も再現できない」と話す。
フロリダの寝具会社ホーランダー・スリープ・プロダクツの場合、将来のサプライチェーン混乱に備えてメキシコや中米からの物資調達を検討しているが、綿や合成繊維といった法外に高価でない素材の調達に苦労しており、特に完成品の多くを依存してきた中国、パキスタン、インドで大規模生産される素材と比べると厳しいという。同社のジェームズ・ヒル上席副社長(グローバルソーシング&サプライチェーン担当)によると、中南米ではそうした品質の素材を非常に低コストで生産するインフラが存在せず「ニアショアリングや地域調達の進化ではそれを支える原材料の提供量や入手可能性に目を向ける必要がある」という。
■メキシコは生産力が限定的
過去2年間の新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの混乱で、多くの欧米企業がニアショアリングに目を向けるようになった。港での渋滞が続き、品物が入らず店の棚は空になり、材料が来ない工場は休止し、何十億ドルもの商品が流通網の中に積み置かれた結果、この動きは加速している。
ニアショアリングは、消費者やエンドユーザーの近くに生産拠点を置くことで、出荷の中断やコスト上昇の原因となる長い供給ラインを排除し、さまざまな衝撃に対するサプライチェーンの回復力を高めると考えられている。コンサルティング大手カーニー(Kearney)のメキシコシティー事務所によると、ニアショアリングを試みる顧客の数はこの1年で驚くほど増えており、メキシコは米国に近いことから好まれている。メキシコには既存の製造インフラと確立した貨物輸送ネットワークもある。
同社が米国の製造業経営者を対象に行った最近の調査によると、CEOの70%がメキシコへの製造移転を計画、検討、または期待している。ただし、すでに移転した企業はわずか17%しかなく「多くの企業は、メキシコは生産能力が限られ、特定の設備やコンポーネントを製造できないことに気づいている」という。
ケンタッキー州の狩猟用アーチェリー製品販売シリウス・アーチェリー・プロダクツは、トランプ前政権時代の米中貿易摩擦以来、矢に使う高品質の炭素繊維をより近くで調達しようと試みてきたが、メキシコではふさわしいサプライヤーが見つからず、代わりに日本から調達している。セス・ポストン社長は「とにかくメキシコという選択肢はない」と話した。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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