保険会社は2021年、サイバーセキュリティー保険の料金を大幅に引き上げた。相次ぐ大規模なサイバー攻撃や政府の措置によって商品需要が高まったためだ。
■元受保険料は92%も増加
ウォールストリート・ジャーナルによると、業界の監視機関である全米保険監督官協会(NAIC)に提出された情報からは、米国の大手保険会社が21年に契約者から直接受け取った元受保険料は前年比92%にも膨れ上がったことが分かる。アナリストらによると、この増加は主に保険料の上昇が理由であり、保険会社がカバー対象を大きく広げた訳ではない。
保険料上昇によって、米サイバー保険業界の直接損害率(収入に対して保険請求者に支払う保険金の割合)は過去最高だった20年の72.5%から21年は65.4%に低下したが、まだ19年の47.1%を大幅に上回っている。
業界幹部によると、比較的新しい市場が急速に成熟しつつある場合、市場の再編を反映して保険料が大幅に上がることがあるといい、保険業界がサイバーリスクの価格設定権を握りつつあることが分かる。
カリフォルニアを拠点とする保険会社カウベル・サイバーのジャック・クデルCEOは「サイバー保険の引き受けが増えた割に市場環境は長年にわたって軟調だったが、ようやくサイバー保険料が適正化されつつある」と見ている。こうした調整には保険加入時の調査の厳格化も含まれ、現在多くの保険会社は加入希望者に対し、多要素認証(2段階認証など)を含め少なくとも基本的なサイバー攻撃対策を実施していることを証明するよう求めている。民間企業の情報保護強化を目指すホワイトハウスは、業界のこの動きを高く評価している。
■ウクライナ紛争でグレイゾーン拡大
専門家によると、市場の混乱は21年5月、コロニアル・パイプラインのハッキング被害によって深まった。この事件でランサムウェア(身代金要求型コンピューターウイルス)攻撃の急増が明らかになり、議会・政府によるサイバー犯罪規制強化に拍車をかけた。
保険仲介会社CACスペシャルティーの上席副社長でプロフェッショナル・サイバーソリューション責任者のアダム・ラントリップ氏によると、21年は保険料の値上げに加えて、多くの保険会社が保険の補償範囲を縮小した。その結果、企業は同じ補償額を維持するためにより多くの保険契約を締結し、より多くの書類を作成しなければならなくなった。
CACでは現在、顧客が保険の契約更新に必要なすべての課題を解決するのに推定4~6カ月かかるという。またここ数カ月は、一部の保険会社がロシアのウクライナ侵攻のような戦争行為による免責条項を明確化する動きも見せている。
武力紛争がデジタル領域に拡大することが増え、こうした免責事項の詳細な説明や法廷での解釈は、保険会社や企業に大きな影響を与える可能性がある。ウクライナ紛争では、ロシア側とつながるハッカーが影響の少ないサイバー攻撃を仕掛ける例がほとんどだが、セキュリティー専門家は「両サイドで非国家主体が行う活動によって、保険対象と非対象の間の法的にあいまいな部分(グレイゾーン)が拡大する可能性がある」と警告している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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