オハイオ州コロンバス、大規模の技術業界集積都市に ~ 製造業の街から金融や医療向け技術の新興企業の拠点に変身

オハイオ州コロンバスは近年、技術会社らが集まる地域として頭角を現している。テッククランチ誌によると、同市には、技術系の新興企業やベンチャー・キャピタル(VC)、シリコン・バレーでかつて働いていた人材が集まっており、技術業界集積地域の経済圏として持続する要因がそろっている。もはや中西部だけでなく、全米を見わたしても主要と言える技術業界生態系の拠点になりつつある。

▽米国の縮図のような特性から大企業が拠点を置く街に

中西部の他都市と同じように、コロンバスは20世紀に製造業の集まる場所として成長した。いまでも製造業の雇用が多数あるが、過去数年にわたっては、金融や小売、医療といった業界の会社らを引きつけるようになった。

1990年代と2000年代には、米国全体の人口構成をほぼ反映するかのようにコロンバスの人口構成も推移した。コロンバスはそのため、新商品を試験的に販売する際の実験的市場として選ばれるようになった。それが、新しいものを試そうとする気風をつくり出したうえ、JPモルガン・チェイス(JP Morgan Chase)やネイションワイド(Nationwide)、ステート・ファーム(State Farm)、カーディナル・ヘルス(Cardinal Health)、Lブランズ(L Brands)といった大企業らが拠点を置くようになった。

特に金融と保険の技術を手がける新興企業にとって肥沃な環境を生み出した。

▽ドライブ・キャピタルの誕生で技術新興企業への投資が本格化

2010年代にも重要な動きがあった。オハイオ州の雇用開発と投資誘致を推進するジョブスオハイオ(JobsOhio)が2011年に設立された。同団体は全米でも屈指の経済開発組織に成長した。

また、2013年には、VC大手のセコイア・キャピタル(Sequoia Capital)に勤めていたマーク・クヴァミ氏とクリス・オルセン氏がコロンバスの将来性に賭けて移り住み、新たなVC会社ドライブ・キャピタル(Drive Capital)を設立した。

ドライブ・キャピタルは現在、12人のパートナーを擁して12億ドルを運用し、毎年7000社の新興企業から投資を求められている。投資先第1号のオリーヴ(Olive)は、医療業界向け人工知能技術を開発する新興企業で、現在の評価額は40億ドルだ。

以来、コロンバスは、新興企業の集まる市として爆発的に成長してきた。2017年には医療品流通のマッケソン(McKesson)がカヴァーマイメッズ(CoverMyMeds)を14億ドルで買収し、同州の新興企業として初めて10億ドルを超えた投資回収の事例となった。

コロンバスはそれを受けて、新興企業界で明らかに注目される技術業界集積都市となった。クヴァミ氏は2021年に、地元の業界会議で「波の始まりだ」と語った。

▽起業界生態系をささえる三つの資金源

コロンバスの新興企業らにとって重要な資金の流れは、おもにに三つに分けることができる。一つはドライブ・キャピタルで、これまでにオリーヴのほか、ルート(Root)やビーム・デンタル(Beam Dental)、デュオリンゴ(Duolingo)に投資してきた。

もう一つは、VC会社レヴ1(Rev1)だ。コロンバスに拠点のある大企業から新興企業までに投資しており、投資した新興企業にはアップドックス(Updox)やマイオネクサス(Myonexus)、スクリプトドロップ(ScriptDrop)がある。これまでに立ち上げを支援した新興企業は150社以上、投資した会社は300社以上、投資回収を成功させた会社は700社以上ある。

さらに、ジョブスオハイオとワンコロンバス(OneColumbus)の存在も重要だ。それらの団体は、地元の会社らを支援し、技術会社をコロンバスに誘致するという点で、大きな役割りを果たしてきた。

2021年から2022年までのあいだに大型資金調達に成功したコロンバス拠点の新興企業には、オリーヴやパス・ロボティクス(Path Robotics)、ロウワー(Lower)、ビーム・デンタル、ライジングAI(Rising AI)、ホームタウン・チケッティング(HomeTown Ticketing)、アンドヘルス(AndHealth)がある。

▽技術大手らも拠点設置

コロンバスは過去10年にわたって、既存のIT大手らの拠点も誘致してきた。メタ・プラットフォームやアマゾン、グーグルはいずれも大型拠点をコロンバスにすでに設置している。マイクロソフト傘下の生命科学事業会社ヴィーヴァ・システムズ(VeevaSystems)も、2018年の事業拡大に際してコロンバスを拠点増設都市として選択した。

「米国で2番目の主要拠点の場所を探していた際、15の都市を検討した。コロンバスを選んだ理由はおもに三つある。それらは、1)革新とその気風があること、2)人材が豊富であること、3)そして当社の価値観にあった人たちがいることだった」とヴィーヴァのキャサリン・オールズハウス最高情報責任者は話した。

オールズハウス氏によると、「コロンバスには躍動的な革新の精神と起業家精神があり、クリエイティブで機敏に動く新興企業の文化を生み出している」。

さらに、ことしに入ってインテルが200億ドルを投じて二つの半導体工場をコロンバス郊外に建設する計画を発表した。オハイオ州で単体の経済開発事業としては史上最高額だ。

▽シリコン・バレー離れの移転先

新型コロナウイルス・パンデミックによって遠隔労働が常態化したこともあって、生活費や会社経営コストの高いサンフランシスコ湾岸地域(シリコン・バレーを含む)から離れる会社も人材も急増中だ。

シリコン・バレー企業らのシリコン・バレー離れは、パンデミック以前にも確認されていたが、パンデミックがその動きに拍車をかけた。特に、中西部出身者らは、東西海岸を離れて故郷に帰る決断がしやすかったということもある。中西部の多くの街では低コストで高い生活水準を謳歌できることが大きな魅力となっており、それがコロンバスでは特に顕著だ。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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