生理記録管理アプリケーション業界に激震 ~ 中絶をめぐる最高裁判決、利用者データの匿名化を誘発

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、妊娠中絶に関する最高裁判決がアプリケーション業界を激震させている。

▽連邦最高裁、1973年のロウ対ウェイド判決を覆す

生理記録や妊娠活動を支援するアプリケーションの提供会社たちは、妊娠中絶を憲法上の権利として容認した連邦最高裁の歴史的「ロウ対ウェイド(Jane Roe, et al.v. Henry Wade)」判決(1973年)を最高裁みずから6月24日に覆したことを受けて、利用者データの匿名化に急遽、取り組んでいる。

何百万人もの女性は、妊娠促進または避妊目的のために次の生理がいつ来るかをフロー(Flo)やクルー(Clue)、アップル(Apple)iOSのヘルス(Health)といったアプリケーション・サービスによって予想および追跡、記録管理している。

今回の判決は、中絶を犯罪と規定する可能性のある州に住む女性に対して適用される可能性のある個人データをあつかう生理記録アプリケーション・サービスらに対応を迫ることになった。

▽ナチュラル・サイクルスは完全匿名化、フローは「匿名モード」を導入へ

それらのアプリケーション開発会社らは、利用者たちについて共有すべき特定の情報をそもそも持たないようにする方法を模索している。それによって利用者を訴訟から守ろうとねらう。

米食品&医薬品局(FDA)から認可を受けた初の避妊アプリケーション「ナチュラル・サイクルス(Natural Cycles)」は、「利用者らにとって完全に匿名の体験」を構築しようと取り組んでいる、と同社の共同創業者で共同最高責任者のラウル・シャーウィツルは話した。

「目標は、われわれナチュラル・サイクルスでさえも利用者を特定できないようにすることだ」と同氏は話した。

かたやフローは、「匿名モード」と呼ばれる新機能を近く開始すると発表した。同機能は、フローのアカウントから個人情報を削除するオプションを利用者に提供するものだ。

▽ミズーリ州検察、月経データを起訴に使用

ロウ対ウェイド判決が覆される前からも月経データは政府機関による調査または捜査に使われてきた。ヒューストン大学の保健法&政策研究所のリア・ファウラー調査責任者は2019年の公聴会において、ミズーリ州政府保健局が非営利団体プランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood)の中絶患者関連情報表を保管し、そのなかに最終月経日付けが含まれていたことを認めた。

最高裁がロウ対ウェイド判決を覆したことで、米国ではこれから、保守的な州政府が妊娠中絶を違法にする州法を制定し、その結果、そういった州では、中絶を希望する女性が、望まれない出産を受け入れるか、中絶を容認する州に行くかの選択を迫られることになる。

また、妊娠を違法とする州政府の法執行機関は、生理記録アプリケーション業者らに個人データの開示を求めて中絶取り締まり捜査を強化することが確実だ。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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