重機大手キャタピラーが本社をイリノイ州からテキサス州へ移転する計画を発表するなど、米国の製造業界で最近、拠点を南部に移す動きが強まっている。
■豊富な労働力、安い土地
ウォールストリート・ジャーナルによると、新工場の建設や生産拠点の拡張、本社の移転を検討する際、南部または南西部州に目を向ける企業が増え、その結果これらの地域で製造業雇用が増えている。労働省の統計では、2021年までの5年間に製造業雇用が最も増えたのはフロリダ、テキサス、アリゾナ、最も減ったのはニューヨーク、ワシントン、イリノイ各州だった。
南部に投資する企業は、労働力の増加、手頃な住宅価格、物理的インフラの豊富さ、質の高い教育システムなどを利点を挙げている。南部および南西部州には、売上税から高熱費を差し引けるようにしたり、固定資産税の免除や他社に転売できる税額控除を提供するなど、メーカーに優しい州作りに取り組んでいるところもある。
■相次ぐ投資
フォードは21年9月、韓国SKイノベーションと114億ドルを投じてテネシー州とケンタッキー州で電気自動車(EV)とEV用電池の新工場を4カ所建設する計画を発表。トヨタも同年、ノースカロライナの電池および完成車工場に12億4000万ドルを投資すると発表した。
乳製品大手レプリーノ・フーズ(Leprino Foods、コロラド州)は、テキサスのモッツァレラチーズ工場に8億7000万ドルを投資し、アルミ大手ノベリス(Novelis、ジョージア州)は飲料缶の需要を支えるためアラバマ州モービル近郊で約40年ぶりに国内最大のアルミ圧延工場を建設する。
オフィス家具のスチールケース(Steelcase)は、ミシガン州グランドラピッズに本社と一部の生産拠点を置いているが、ここ数年は製造と従業員の拠点を他地域に広げ、現在は同社最大の工場はアラバマ州アセンズにある。
キャタピラーの場合、何年も前からイリノイの社員を減らしながら、この10年は州外の製造拠点に投資。ノースカロライナの小型機械工場、ミシシッピの再生工場、テキサスのエンジンブロック工場を拡張している。同社が事業の拠点を決める際は「ビジネスと労働力の要素を考慮する」(広報担当者)といい、ジム・アンプルビーCEOは「本社移転は当社と顧客の成長にとって戦略的に理にかなっている」と話した。
■人口の動向と一致
製造業における設備投資や企業投資は、人口の動向とも関係がある。国勢調査局によると、米国の地理的人口中心はこの数十年、南と西に移動しており、現在はミズーリ州南部にあると推定される。21年7月までの1年間に最も急成長した15の市町はすべて南部か西部州で、投資が拡大したアリゾナ、ニューメキシコ、テキサス、オクラホマでは20年までの4年間、製造業生産が国内のどの地域よりも増加した。
テキサスビジネス協会のグレン・ハマーCEOは、この地域に企業が集まっているのは、労働力の増加、気候の良さ、税金の低さ、規制の緩さが理由だと指摘する。また、テキサスを含むこの地域は労働者が労働組合への非加入を選択できる「労働権法(right-to-work laws)」があることでも知られ「事業の運営コストが安いのも企業誘致に役立っている」(ハマー氏)という。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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