デジタル標的広告、クッキーから人工知能へ移行 ~ 来たる変革に対応するストップ&ショップの取り組み

ベンチャービート誌によると、デジタル広告の標的を絞る際に、これまではクッキー・データが重要な情報を提供してきたが、クッキーに頼らない方法を選ぶ会社が増えている。本稿では、ポスト・クッキー時代の近未来に向けて、食品小売チェーン大手のストップ&ショップがどのように取り組んでいるかについて解説する。

▽第三者クッキーに依存する従来方法の終焉

小売会社やブランド会社らは過去20年ほどにわたって、第三者のクッキー・データに頼って広告表示相手を絞り込んできたが、その時代は終わろうとしている。

グーグル(Google)は、クローム(Chrome)ブラウザーについて、第三者クッキーのサポートを段階的に廃止する計画を打ち出している。アップル(Apple)は、iOS向けアプリケーションについて、モバイル端末識別子の使用に制限を設けている。

さらに、EUの一般データ保護規則(GDPR=General Data Protection Regulation)の遵守にともなうプラットフォーム提供会社や広告主らの負担も増している。

▽代替手段として浮上する人工知能

デジタル広告業界では、そういった状況変化や潮流を受けて、第三者のクッキー・データにまもなくアクセスできなくなる見通しだ。

小売会社やブランド会社らは、それを見越してすでに動き始めている。クッキー・データが使えなくなった場合の代替手段として浮上しているのが、人工知能を使って当事者(広告を打つ会社)と第三者のデータから学習して、顧客属性および消費者層に関するパターンを検出する技術だ。

▽ストップ&ショップ、早期での試験に着手

ストップ&ショップ(Stop & Shop)は、過去1年半にわたって、デジタル広告会社AMPエージェンシー(AMP Agency)と協力して新しい手法を試験運用してきた。ストップ&ショップは、マサチューセッツ州を拠点に米国北東部に415店舗を展開している。

「第三者クッキー時代のあとに何がどのように変わるかを理解したいと考えた。指標や基準をどのように調整すれば成長と向上を実現できるかを知りたい」と、同社のデータ戦略担当副社長のマンサ・ワイズ氏は話している。

また、ストップ&ショップのデジタル販促責任者メーガン・ギャリガン氏は、プライバシーを尊重する方法で関連性のあるコンテントを顧客に効果的に表示する代替手法を見つける必要があることはしばらく前からわかっていた、と話す。

「ブラウザーのクッキーに頼るという安全な手法がまだ存在するうちに、できるだけ試験しておきたいと思った」とギャリガン氏は説明する。

▽経営陣の理解を確立

ストップ&ショップが最初に確認したのは、当事者データ、すなわち自社で保有するデータの健全性を確認することだった。同社は現在、クッキー・データにもとづく手法と新しい手法の効果を直接的に比較する段階へと進んでいる。

同社はまた、変化が訪れることを経営陣に理解してもらうべく努力してきた。「過去2年にわたって、これまでに馴染んできたものすべてがこれから変わることを経営陣に説明してきた」「2023年までには自信を持って遂行できる計画を策定している、と説明した」とギャリガン氏は話す。

▽文脈標的という手法

ストップ&ショップのためにAMPエージェンシーが選んだのは、文脈標的(コンテキスト・ターゲティング)を徐々に増やしていく手法だ。文脈標的とは、ウェブサイトのコンテントに応じて広告を表示する方法だ。

ストップ&ショップはまた、クッキー以外の方法で顧客識別子を提供する会社らとも提携した。たとえば、ストップ&ショップとAMPエージェンシーは、ライヴランプ(LiveRamp)のサービスを試験している。ライヴランプは、米国の2億5000万人の消費者データベースを独自に構築し、機械学習アルゴリズムを活用している。

▽利用者らを追跡せずに行動を予想

AMPエージェンシーはさらに、人工知能を使った標的技術を提供するディスティラリー(Dstillery)と以前から協力関係にある。ディスティラリーは最近、機械学習による予想分析によって適切な対象を特定する広告技術を導入しており、AMPエージェンシーは2022年に入ってからそれを試験している。

ディスティラリーのデータ科学責任者メリンダ・ハン・ウィリアムス氏によると、同技術は利用者らを追跡せずに、行動を予想して絞り込む。利用者らを理解しようとするのではなく、もっとも適切なインプレッションの場所を探すために人工知能を使っている。

同社は、顧客に関する当事者データを使って人工知能に学習させたうえで、広告枠の入札に有用な手がかりを探す。たとえば、地域やURL、時間帯といった要素をもとに広告表示場所を選ぶ。識別子のようなものは使わない。

▽購入意図を推し量ることも可能

ディスティラリーはまた、情報検索や計画策定といった消費者行動から生活様式までをその方法で分析することで、購入意図を推し量ることができる、とウィリアムス氏は説明している。

「当社の方法は、ほかのほとんどの取り組みとかなり異なる」と同氏は話す。クッキー後の世界を見越したほかの多くのソリューションは、新しい識別子にもとづく方法をとっているが、識別子をともなわないインターネット交通量(トラフィック)もウェブ上に大量に存在する、と同氏は指摘する。

「利用者らが自身に関する情報を知られたくないと思っていることを、われわれは額面どおりに受け止めている。われわれはそのため、利用者についての情報を知ろうとしない。私たちが唯一知っているのは、当該利用者がいま現在、何をしているかだ」と同氏は説明した。

▽グーグルの代替手段でも不十分

グーグルは、プライバシー・サンドボックス(Privacy Sandbox)と呼ぶ取り組みを通じてクッキーに代わるものを独自に提供しようとしている。ウィリアムス氏によると、それもやはり顧客識別子に注目した手法だ。

「グーグルの最初の試みはフロック(FLoC=Federated Learning of Cohorts)であり、利用者らの行動にもとづいて利用者らをグループ化するものだったが、プライバシーの配慮が十分でなかった」と同氏は指摘した。

同氏によると、「いまではトピックス(Topics)を追求し、より幅広い情報を提供しているが、それだと広告業界にとってあまり有用ではない」。

フロック(コーホートの連合学習)とは、第三者クッキーの問題点である「個々のインターネット利用者らの行動を広範に追跡し、属性や所在地、興味、関心といった情報を広告に利用する」性質を排除しながら標的絞り込みを実現するためのAPI(application programming interface)だ。

▽クッキーにもとづく従来方法と同等の結果

ディスティラリーは、利用者識別子を使わない代替方法でもクッキーにもとづく従来方法と同程度の結果を出せていると説明している。

「情報を欠いているにもかかわらず、人工知能で同等水準の予想ができることに感心する。マインドセットを変える必要がある」と、ウィリアムス氏は話している。

ストップ&ショップでは、人工知能ソリューション群を試験することがきわめて重要だと考えている。「学習の目標を立てて、将来に備えることができる。ポスト・クッキーの新時代に入った時点で、当社にとって大きな力になるだろう」とギャリガン氏は述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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