自動運転車(AV)は、何らかの問題が発生した時に遠隔操作で手助けできるよう、離れた場所から常に人が監視する必要があるとの見方が業界で増えつつある。
■とっさの判断が困難
ロイター通信によると、AVは、コンピューターと人工知能(AI)が人為的な間違いによる事故を劇的に減らすという大前提に基づいて開発や投資が進められてきたが、自動運転ソフトウェア・システムには、予期せぬ事故やエッジケース(極端な状況)に直面した時、人のように素早くリスクを予測・評価できないという短所がある。
ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のAV開発子会社クルーズ(Cruise)のカイル・フォクトCEOは最近、人による遠隔監視を排除すべきかという質問に「必要な時に助けてくれる人が常にそこにいることで、顧客に安心感を与えられる。それを排除したい理由が分からない」と答え、初めて遠隔オペレーターの長期的な必要性に言及した。
AVはどうしたら良いか分からないと必ず停止するため、何百マイルも離れた場所で人間が航空管制官のように複数のAVから送られる映像を監視し、時には手元のハンドルを操作して、動けなくなった自動運転システムを誘導できる仕組みが必要になる可能性がある。
■開発に大幅な遅れ
完全AVの展開は、数年前の楽観的な予測よりも大幅に遅れている。GMは2018年、ハンドルもブレーキもアクセルペダルもない完全AVについて連邦当局の承認を求め、19年にはそれを配車サービス車両として導入する予定だったが、現在その車両「クルーズ・オリジン」の生産は23年春以降に始まる予定となっている。
電気自動車(EV)で先行するテスラのイーロン・マスクCEOも、19年に「来年には確実に100万台のロボタクシー(自動運転タクシー)を導入する」と約束したが、同社の提供する「Full Self Driving(完全自動運転)」機能は、人間がハンドルに手をかけ、緊急時に運転を引き継げる準備ができていないと働かないため「看板に偽りあり」と批判され続けている。マスク氏は22年6月のインタビューで、AV開発は「当初考えていたよりもはるかに難しい 」と認めながらも、日程を聞かれると「今年はできる」と答えた。
■エッジケースはなくならない
現在、多くのAVベンチャーは、緊急時に備え運転席に座る「安全ドライバー」と並行して、遠隔監視で人間を使っている。これによって人件費はかかるが、道路工事に伴う不定期の車線閉鎖や、歩行者や他車の不規則で予想外の動きなど、エッジケースへの対応を支援できる。
英国南部の都市ミルトンキーンズで遠隔オペレーターを使った配車サービスを提供するAV開発企業インペリアム・ドライブ(Imperium Drive)のクーシャ・カーベCEOは「やがて、こうした人々が管制官として、増え続けるAVを監督するようになる」と見ている。
クルーズの場合、現在サンフランシスコで走らせているAVが運転を人に頼る時間は全体の1%未満だが、AVの数が1000台、1万台と増えれば路上に停止して人間の誘導を待つ車はかなり多くなると見ている(フォクトCEO)。インペリアムのカーベ氏は「人間よりも動きを予測しやすいAVが増えればエッジケースは減るだろうが、決してゼロにはならない。だから何十年たっても完全AVに到達することはない」と考えている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
ディープフェイク、金融サービス業界をいよいよ標的に 〜 生成人工知能による音声模倣で詐欺急増は必至
-
2024年4月25日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
広告嫌いのテスラが一転、積極展開
-
ビットコイン半減は価格にいかに影響するのか 〜 最高値更新から乱高下、次の半減期が目前に
-
2024年4月22日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
ボルティモアの橋崩落、輸出・小売業者に影響
-
米国のMBA課程、人工知能分野の教育を積極化 〜 会社で求められる技能に学生側も関心を強める
-
2024年4月18日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
テスラ、急速充電網を開放~EV普及の節目となるか
-
2024年4月15日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
EV生産コスト、27年にはガソリン車より安く~ガートナーが予想
-
人間の労働力の方が人工知能より安価 〜 MITの研究、雇用機会の大部分は人工知能にまだ奪われないと結論
-
ドローン配送に現実味~運用範囲広がる
-
アマゾンや小売大手ら、頻発する返金詐欺で巨額の損害 〜 詐欺集団ら、ティックトックで協力購入者たちを募集