アップルのエアタグ、認知症患者の追跡に使われる ~ 本来の用途ではなく潜在的問題もあるが介護者らに恩恵

アップル(Apple)のエアタグ(AirTag)が認知症患者の介護に活用されている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、認知症患者の介護者ら(配偶者やそのほかの家族)は、既存の患者監視方法があわなかったり高価すぎたりといった理由から、29ドルのエアタグを患者追跡に利用し始めている。

多くの認知症患者追跡アプリケーションは、患者がスマートフォンを携行することを前提とするが、実際には、スマートフォンを持ち歩くことを忘れる場合が多い。その一方で、財布を持って出ることは覚えているという。エアタグは財布に装着できるよう設計されている。介護者たちは認知症の家族の財布にエアタグをつけることで、居場所をつねに把握できるようにしている。

ただ、認知症患者を追跡することは倫理的に問題がある、と保健当局は指摘する。また、エアタグを使っている介護者たちでさえ、深刻な状況に即応するには精度が低いと感じている。

アルツハイマー病協会によると、65歳以上の米国人のうち約650万人がアルツハイマー型認知症であり、その数は2050年までに1270万人に増えると予想される。

ミネソタ大学の大学院生助手ミシェル・ハーシュボック氏(59歳)は、認知症を患う夫のポールを追跡するために、GPS追跡機能が内蔵された靴用中敷き底をソーシャル・ワーカーから勧められた。しかし、一足300ドル以上する場合もあるほか、毎月のサービス料金がかかる。ハーシュボック氏は、夫がいつも同じ靴を履くわけではないことや、「家の鍵と財布をポケットに入れて外出する」ことから、エアタグを試すことを決めた、と話す。

ハーシュボック氏は、エアタグとキーホルダーを約2ヵ月前に購入し、エアタグを夫の財布に取り付けた。その結果、「夫が鍵をなくしたときや散歩中に迷子になったときでも居場所がすぐにわかるようになった」「アイフォーンの『探す』アプリケーションで場所がすぐに表示される」「リアルタイムではないが、数分前の場所がわかる」ため、わずか29ドルで十分に役目を果たしている、と妻は話している

エアタグは社会問題も懸念されている。車や持ち物にしのばせることで、本人に気づかれないようにストークするのに悪用されるためだ。アップルはエアタグの本来の機能について、大事なものを紛失した場合に探し出す道具である点を強調し、人の追跡といった悪意ある使い方を非難している。同社は、自身以外のエアタグが自分を追跡しているかどうかをより簡単に検出できるようにするソフトウェアを更新した。

ミネソタ大学の公衆衛生大学院の長期介護&高齢科学教授ジョセフ・ゴーグラー氏は、エアタグや同様の製品が介護者にとって魅力的であることに理解を示すと同時に、愛する人の徘徊に介護者自身が直接対処すべきだと話す。「何が徘徊につながるのかを理解し、それを防ぐ方策を考える方が建設的だ」とゴーグラー教授は述べた。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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