このほどラスベガスで開催された国際IT家電見本市CESでは、さまざまな革新的技術が発表された一方、自動車分野のイノベーションは実用化に時間がかかるという課題があらためて明確になった。
■他業界より遅い
オートモーティブ・ニュースによると、自動車メーカーは、温室効果ガスの排出削減、エネルギー安全保障と地政学的安定、そして経済の不確実性に対する懸念を背景に、現状を打開しつつコスト削減も実現できる技術を求めている。しかし、そうした技術を実用化するには徹底的な開発、検証、確認という手間のかかる作業が必要になる。
ベンチャーキャピタルやPE投資家、テクノロジー企業など自動車以外の業界をよく知る人々にとって、ゆっくりとした進展は依然として不満の種だ。電気自動車(EV)が車載充電器なしで電力系統(グリッド)から直接充電でき、航続距離を延ばせるインバーターをCESに出展したカナダの新興企業eリープパワー(eLeapPower)のラッセル・プランCEOによると、ほかの業界なら、素晴らしい何かを見れば企業はすぐに「この分野を支配しよう」となるが、自動車業界では「これは素晴らしいが、15年もやっているのか」という状況が多いという。
ただ、一部の自動車メーカー、特に中国のメーカーは新技術の採用と展開に積極的で、eリープパワーの場合、中国の奇瑞汽車(チェリー)が最初の顧客となり、2023年中に5万台もの商用バンに同社のインバーターを搭載する予定だ。
■進歩には10年必要?
全般的にコネクテッドカー(インターネット常時接続車)技術の展開は中国が先行している。また、EV技術の導入では中国と欧州が主導的地位にあるが、米国は「消費者はEVを買う前に充電インフラの充実を望んでいる」というニワトリと卵の問題に今も悩んでいる(マッキンゼーのフィリップ・キャンプショフ氏)。
米国政府は過去1年半、50万基の公共充電ステーションを建設して電池材料の国内サプライチェーン開発を急ぐといった努力をしたが、電池情報分析ソフトウェアを開発するボルテイク(Voltaiq、ニューヨーク州)のタル・ショクラッパーCEOは、こうした取り組みの成果が表れるには10年以上かかるかもしれないと指摘する。同氏は、注目を集める多くの新しい電池材料も、現状の定着と高コスト問題のため、商業化のペースが遅くなる可能性があると警告。「何十年経ってもリチウムイオンはなくならない」と見ている。
ボルテイクのイーライ・リーランド最高技術責任者(CTO)は、EV電池分野の技術革新が不利な状況にある訳ではないが、市場投入までの時間に関する期待値を再調整する必要があると見ており「この分野のイノベーションと進歩の本質は、物事を証明しそれを拡大することは困難で、通常は10年ほどかかるということ」と話す。
また、自動運転車(AV)については、法整備の欠如が技術の普及を妨げているとの指摘もある。連邦議会は、AV規制の国家的枠組みを作る法案の通過に何度も失敗しており、CESを運営する全米民生技術協会(CTA)のギャリー・シャピロ会長は「米国は他の国々に後れを取っている。米国は今、自動運転に友好的な国とは認識されていない。過去10年間、どの政権も人工知能(AI)を含む技術全般の進歩を支援してきたが、今のバイデン政権に自動運転を支援する意欲はないようだ」 と述べた。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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