ニューヨーク市は、環境に優しい都市を目指し2035年までにガソリン車の新車販売を段階的に停止するが、電気自動車(EV)の普及に必要な充電器の設置が課題となっている。
■普及率まだ1%未満
ウォールストリート・ジャーナルによると、ニューヨークでは路上駐車に頼るドライバーが多く、自家用充電器を設置できる車道や車庫のある家がないため、EVの普及を進めるには公共充電所が数千カ所必要になる。ただ、州の最新データによると市内で登録されている自動車のうちEVは1%もない。
市交通局は、30年までに充電に数時間かかる公共充電器を4万台、30分程度で充電できる急速充電器を6000台設置する必要があると試算している。しかし、都市部の密集地で充電器を増やそうとすれば、高価な不動産、許認可の問題、サプライチェーン(供給網)の遅滞などの問題が伴う。特にEVがほとんど走っていない現状では、急速充電が可能で、大量の電力を必要とする設備は建設や運用が難しくなる可能性がある。
ニューヨーク市とウェストチェスター郡では、EV充電器の導入に必要なシステム更新費用を電力会社コンソリデイテッド・エジソン(コンエド)が負担する予定だが、eモビリティー担当者によると、急速充電器に対する開発業者の関心は高く、すでに1000件の申請があるものの、充電サービス会社は何年も政府や電力会社からの補助金を必要とする可能性がある。「市場はまだ持続可能な段階にはない。これらの充電器を全て使い、稼働率を上げるには車の数が足りない」(同担当者)
■面積は限られ、駐車場所も不定
NY市ブルックリン区で市最大の公共急速充電施設を運営するレベル・トランジット(Revel Transit)は、EV充電所のニーズを高めるため、テスラのEVを使って供用サービスを提供している。一般的に充電施設の所有者は、公的な資金援助が受けられたとしても、急速充電器の設置で採算を取るには充電器が営業時間の約4分の1稼働しなければならないといわれる。レベルが所有するテスラ車200台は毎日1~2回充電され、施設に25台ある充電器の稼働率は約41%となっているが、同社のEVがなかったら1日のうち4%程度しか使われないと推定される。レベルは市内に新しく5カ所(計136台)の充電施設を開く予定だ。
一方、同業のグラビティー(Gravity)は、23年1~3月期に市内マンハッタン区ミッドタウンのガレージで急速充電器24台を備えた充電所をオープンする。当初は21年の予定だったが、狭い敷地向けに充電器を設計し直し、施設が入るビルの既存の電力系統とつながなければならなかったため大幅に遅れた。
また、ニューヨークではドライバーがその日にどこに駐車できるか分からないという課題もある。そのため、いくつかの新興企業は道路わきに目立たない充電器を置いてサービスを提供する計画だ。
イッツ・エレクトリック(It’s Electric)の場合、人々の歩行の障害とならないようドライバーに自分専用の充電コードを持たせようとしている。同社はこの冬、現代自動車グループと共同でブルックリン区に初の路上充電器を設置してパイロット事業を開始する。
NY市は、25年までに路上充電器を1万台増やし、夜間や勤務中に利用できるようにしたいと考えている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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