テクノロジー業界で相次ぐ大規模な人員削減が、特殊技能職向けの短期就労ビザ(査証)「H1B」で働く外国人労働者に大きな影響を与えている。
■STEM労働者の1/4は外国出身
ウォールストリート・ジャーナルによると、IT業界団体コンプTIA(CompTIA)のデータでは、米国の技術系就労者数は2023年1月に前月から3万2000人減少した。1月の技術系求人数は26万9000人で、過去最高だった22年3月の39万4000人から大きく減少している。
短期就労ビザを持つ労働者が何人解雇されたかを正確に知る方法はないが、業界関係者は数万人が影響を受けたと見ている。米国移住評議会(AIC)の19年の推計によると、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の労働者に占める外国生まれ(永住権取得者、市民権取得者、短期就労ビザ取得者を含む)の割合は約25%で、00年の16%から上昇している。
H1B労働者が失業した場合、60日以内に新しい雇用主を見つけるか、ほかのビザへの移行を申請しないと、米国を出なければならなくなる。また、もし外国人労働者が米国外への旅行中に解雇された場合、60日の猶予期間は適用されず、その時点でビザが無効になるため、別の雇用主を確保しない限り再入国できなくなる。
技術系人材派遣会社を経営するリーナ・スジャン氏によると、IT業界の現状を考えると解雇された外国人労働者が新しい仕事を見つけるのは難しく「H1Bビザを持っているかどうかにかかわらず、雇用自体に消極的な企業が多い」という。
■自宅に戻れない例も
21年に米国でプロジェクト管理の修士号を取得し、ボストンのデータ分析会社でアナリストとして働いていたが1月に解雇されたインド人のスシャント・アローラ氏は「転職希望先から返事をもらい、技術テストや面接に進むには時間がかかるため、60日では到底足りない。まるで悪夢のようだ」と語る。氏は解雇されて以来、500~600件の求人に応募し、面接を3回受けたという。
一方、オーストラリア人が利用できる短期就労ビザで12月までツイッターで働いていたニューマン・ボン氏は、マレーシアで休暇中に解雇を知った。面倒な手続きを避けるため、今は母国のオーストラリアに滞在中だが、ロサンゼルスのアパートは無人のままになっており、車のバッテリーが上がらないよう近所の友人がときどき車を動かしてくれ、植木には別の友人が水をやってくれている。「この10年間、米国に留まるため必死で闘ってきた」というボン氏は、米国滞在中のほとんどをカリフォルニアで過ごし「カリフォルニアは私の拠点。友達全員がそこにいる」と話す。
外国人従業員の解雇日を遅らせて次の仕事を見つける時間を与えようとする企業もあるが、技術系労働者の間で最も一般的なH1Bビザの場合、企業が負う法的義務は、労働者の解雇を連邦当局に通知することと、帰国時の航空運賃を支払うことだけで、解雇の対象者を決める際に国籍を考慮することは許されていない。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
オレオレ詐欺、音声クローニングで巧妙化 ~ なりすましが見破りにくくなり被害が増える可能性
-
2023年3月16日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
パナソニック、米EV電池工場から多くを学ぶ
-
カーレント・サージカル、革新的ながん治療用「スマート」針を開発 ~ 非常に高い精度で腫瘍だけを熱焼灼
-
2023年3月9日 アメリカ発ニュース, ハイテク情報, 環境ビジネス, 米国ビジネス, 自動車関連
NY市、EV普及の課題は充電器の設置
-
IT企業の人員削減、H1Bビザ労働者に大打撃
-
2023年3月2日 アメリカ発ニュース, ハイテク情報, 米国ビジネス
チャットGPT、デジタル販促業務の自動化を促進か ~ 生成人工知能の業務応用、2023年に加速
-
全米小売連盟主催の見本市に見る3大技術動向 ~ 在庫管理合理化、店舗運営の生産性、キャッシャーレス会計
-
スマート家電「非接続派」を説得せよ
-
サイバー保険業界、大規模被害の懸念を強める ~ クラウド・サービスを付保対象外とする事例も
-
2023年2月16日 ハイテク情報, 世界のニュース, 米国ビジネス
北米プーマ、RFID技術を応用して売り上げ増 ~ 在庫管理のさらなる効率化と販売機会喪失防止で成果