自動車業界で士気低下、メンタルヘルス問題が拡大

自動車業界では、人員不足、生産の不安定さ、不況への懸念など、過去3年間の問題が労働現場に重くのしかかり、従業員の士気が著しく低下している。

■新しいタイプの危機

オートモーティブ・ニュースによると、デトロイト近郊にある自動車部品大手フォルビア(Forvia)の工場駐車場で2022年12月、銃撃事件が起き1人が死亡した。警察の調べでは工具をめぐる従業員2人の口論が原因というが、事件は同社が268人の解雇を計画していると報じられた翌日に発生しており、同工場の労働者が加盟する全米自動車労働組合(UAW)155支部のウェイモン・ハルティ幹部は「ほかのすべてのストレス要因を無視することはできない」と述べた。

ミシガン州製造業協会のデイビッド・ウォータムズ雇用政策担当ディレクターは「過去3年間は、新型コロナウイルス禍でほぼすべての産業と職場でストレスが高まり、特に州最大の産業に強い影響を与えた」と話す。度胸と反骨精神が重んじられる自動車業界では、長い間メンタルヘルス問題は職場でタブー視されてきたが、雇用主は深刻化するこの問題に取り組み始めている。

あらゆる業界の職場でのストレスの高まりや燃え尽き症候群の増加に対応するため、州も今年になってメンタルヘルス関連のリソースと戦略を一元化する部署を立ち上げると発表。各業界に特有の問題を掘り下げていく予定だが、製造業と医療サービスは、職場のメンタルヘルス問題が最も深刻な市場分野として上位に挙がっている。

■うつやストレス問題が急増

自動車業界では人員不足が続いており、銃撃事件があったフォルビアの工場でも、十分な数の従業員確保と、顧客の不安定な生産スケジュールに対する人員配置の問題に苦労している。ミシガン州立大学人事労務学部のミシェル・カミンスキー准教授によれば、欠勤はほかの従業員の不満を増幅させる。出勤した従業員はいない人の分だけ余計に仕事をしなければならず、上司から圧力を受けることも少なくないためだ。

ハルティ氏によると、UAW155支部が代表する50の工場すべてで、ストレス、燃え尽き症候群、暴力に関連する従業員の問題が急増しており、例えば「ジャスト・イン・タイムの工場でなければならない、部品を出荷しなければならない」といったストレスだという。

フォルビアの工場も、ビジネスが活況を呈する一方で職場ではかつてないほど多くの問題が発生していた。労働者の心の支援サービス団体ユライアンス(Ulliance)のケント・シャーキーCEOによると、同工場では感情的・心理的な問題が最も多く、次いで仕事に関する問題、人間関係の問題となっている。「過去3年間で不安、うつ、ストレス、人間関係の問題、自殺願望のある従業員が増えている」(シャーキー氏)

フォルビアは事件直後からメンタルヘルスの専門家を迎え、その後2週間はUAWの安全衛生コーディネーターがカウンセリングやメンターリングなどの担当部署を工場に配備して、ライフコーチに工場内を回らせ、話をしたい人がいないか、問題が残っていないを確認し、今後問題が起こらないよう先手を打とうとしている。

リア(Lear)など他のサプライヤーも、従業員のメンタルヘルス向上のために、仲間と会って話をすることで精神面を支援するプログラムを導入するなど、より積極的な動きを見せている。

(U.S. Frontline News, Inc.社提供)

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