米国にも「オレオレ詐欺」はあるが、ほとんど成功しないため、これまでは大きな社会問題になることはなかった。しかし、最近の手口は、音声クローニングを可能にする人工知能によって高度になっており、被害が増えている。
孫や近親者になりすまして高齢者に電話をかけ、困っている状況を装って現金を振り込ませるという古典的詐欺は、米国の場合、声が孫と違うと気づいて標的高齢者が電話をすぐに切る。
しかし、デジタル・トレンズ誌が伝えたワシントン・ポストの報道によると、詐欺師らの一部では、いわゆるディープフェイク(Deepfake)に悪用される人工知能によってクローニング音声を作成し、成功率を一気に引き上げようとしている。
犯罪者たちは、「わずか数文の音声サンプル」をオンライン・ツールにかけ、言葉を入力するだけで何でも言うよう指示して複製をつくっている。
連邦取引委員会のデータによると、2022年だけで3万6000件以上の偽者(なりすまし)詐欺の報告があり、そのうち500件以上が電話によるものだった。報告された被害額は計1100万ドルに達する。
犯罪用の人工知能ツールがインターネット上でより多く流通するようになっているため、それらを使った詐欺がこれからさらに増えることが確実視される。
そういった高度の手口は、標的である高齢者の電話番号と、当該標的の孫や近親者の音声サンプルを必要とする。犯罪者らは、ティックトックやユーチューブといった動画サイトで音声サンプルを見つけ、電話番号を情報案内サイトのたぐいで調べて入手している。
報道によると、弁護士を装った人物が老夫婦に連絡し、孫が犯罪容疑で拘束され、その訴訟費用として1万5000ドル以上の現金が必要だと騙した事例がある。その偽弁護士は、孫に電話をわたすふりをして、その孫のクローン音声で弁護士費用を払うよう懇願し、老夫婦はその通りに払った。
その老夫婦は後日、孫からの電話でその話しが詐欺だったことがわかった。犯人は、孫が投稿したユーチューブ動画から声をクローン化したとみられるが、いまのところ不明だ。
また、多国籍企業の幹部を装い、もっともらしい状況や理由を説明して、国外支社の別の幹部に支払いや送金を依頼するといった手口もすでに報告されている。
そういった詐欺の増加を受けて、声をクローンする人工知能技術を開発する会社らの責任を問う声も上がり始めた。しかし、車の運転者の過失による事故の責任が自動車メーカーに問われないのと同様に、技術を悪用した詐欺師らの責任を、技術を開発した会社に問うのには無理があるという見方が強い。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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