連邦最高裁は6月末、大学の入学選考で黒人などを優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)について、合衆国憲法が定める「法の下の平等」に反するとして違憲と判断した。しかし全米の職場ではかなり前から、多様な労働者の雇用、維持、昇進を巡る緊張が存在する。
■双方から不満
ウォールストリート・ジャーナルによると、テネシー州に本社を置く住宅メーカーのクレイトン(Clayton)は、雇用における全体的な公平性を重視し、他の従業員を疎外することなく少数派の従業員を支援する姿勢を取っているが、こうした多様性対策に対する2万6000人の社員の反応は「不十分」と「やり過ぎ」に分裂している。
大学入試で人種が考慮されなくなれば、企業の採用に向けて多様な新卒者を送り出す仕組みが変化し、長年の採用や昇進の慣行にも課題が生じる可能性が高い。すでに職場の多様性対策が支持派と懐疑派の両方から疑問視されている今、管理職にとっては、求職者の能力や従業員が昇進に値するかどうかを公正に評価することが難しくなっている。
■企業は予算拡大に消極的
米企業の多様性への取り組みは、ミネソタ州で2020年5月、黒人男性のジョージ・フロイド氏が警察官の不適切な拘束によって殺害された事件をきっかけに急激に加速し、職場における人種的不公平について広く検討されるようになった。ただ、今でもこうしたプログラムには資金が投じられているものの、動きは減速している。
大企業の人事責任者140人を対象にしたギャラップの調査によると、今後1年間にDEI(多様性、公平性、包括性)関連予算を増やす予定があると答えた企業は59%で、22年の84%から減少している。
人材派遣会社ケリーが3月に実施した経営幹部、役員、部門責任者1500人が対象の調査でも、多様性に関する開かれた会話を提供する意思があると答えた割合は20%強で、22年の30%から減少した。一方、レイオフや異動の増加でDEI担当職の離職率は上昇しており、雇用データ会社ライブ・データ・テクノロジーズによると、20年半ば以降に多様性関連の職務に就いた労働者の30%近くが今ではこの分野から完全に去っている。
■DEIを重視しない層も
多様性を備えた職場の重要性に関する米国人の意見は、人種や支持政党の違いなどによって異なる。5月に発表されたピュー・リサーチ・センターの調査では、40%近くが「多様な人種がいる職場は、自身にとって重要でないかあまり重要でない」と評価している。
企業リーダーたちは、多様性の推進が自分たちを不利な立場に置くと考える労働者層を孤立させないよう、いろいろと手段を講じている。ワシントンDC近郊で多様性コンサルティング会社を経営するドーン・クリスチャン氏によると、同社の顧客企業は多様性推進予算を削減しており、研修で「diversity(多様性)」という言葉を使うことに新たな抵抗感を示す企業もあるという。
人事コンサルティング会社キンセントリックによる包括的な職場慣行に関する調査によると、白人男性の過半数が「職場で軽んじられている」あるいは「自身の会社への貢献が十分に評価されていない」と感じている。一方、民族的に多様な男性の約43%も、同じように感じている。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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