カナダ政府は、在米のH-1B(専門職就労)ビザ保有者を対象とした就労許可の提供を7月から開始する。H-1Bビザは、工学者を雇用する技術会社らが技術人材確保のために多用するビザだ。カナダ政府のねらいは、米国の移民手続きに不満を抱える高学歴の外国人を引きつけることとみられる。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、カナダ政府は6月に、トロントで開催された技術業界会議「コリジョン(Collision)」においてその計画を発表した。失職したことでビザを失い、先行きが不透明になっている外国人の技術人材を取り込むことがカナダのねらいだ。
米国の大学に留学し、卒業後に米国で仕事を見つけて永住するという人生設計を、世界各国の野心的な若者たちが過去何十年にもわたって追求してきた。しかし、H-1Bビザの抽選倍率が近年著しく高まり、2023年の倍率は10倍近くに達した。また、H-1Bビザから永住権への切り替えも、未処理の申請件数が増えて何年もかかるようになっていることから、留学生や外国人就労者のあいだで難関すぎるという見方が広まっている。
「H-1Bビザの抽選が毎年悪化の一途をたどっていることから、それらの人材にとってカナダが唯一の選択肢かもしれない」と、クリス・リチャードソン氏は指摘する。米国の元外交官である同氏は現在、ビザ申請に関する助言を提供するアーゴ・ビザ(ArgoVisa)を経営している。
カナダの新制度は、H-1Bビザ保有者を対象としたもので、就職先が見つかっていなくてもカナダに移住して、到着後に求職活動できるようにするものだ。カナダの移民制度のもとで永住権をすぐに取得できるような人たちが対象になる。
その新制度がなければ、通常の手続きに従って入国許可を申請するか、カナダ国内の就職先をさきに見つけて就労許可を取得する必要がある。
「これまでのキャリアでカナダに来ることを考えたことはなかったとしても、北米に留まりたいと考える人たちがたくさんいる」と、カナダのショーン・フレイジャー移民担当大臣は語っている。
米国の緩慢な移民制度に対する外国人の不満の高まりは、英国やオーストラリアといったほかの英語圏の国に利点をもたらしてきた。それらの国では、中国やインドからの留学生が増加しており、理工系の高学歴人材の供給源になっている。
カナダでは15年前の規則改正後に留学生が永住権を取得しやすくなった。最近ではマイクロソフトやグーグル、メタ・プラットフォームスといった米技術大手らもトロントやバンクーバーに事業拠点を開設しており、米国の同僚と時差なく働ける利点がある。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
この記事が気に入りましたか?
US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします
最近のニュース速報
-
2024年4月29日 アメリカ発ニュース, ハイテク情報, 米国ビジネス
米商務省、TSMCのアリゾナ工場への投資を提案 〜 米中緊張悪化を背景にチップの国産化に重点
-
ディープフェイク、金融サービス業界をいよいよ標的に 〜 生成人工知能による音声模倣で詐欺急増は必至
-
2024年4月25日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
広告嫌いのテスラが一転、積極展開
-
ビットコイン半減は価格にいかに影響するのか 〜 最高値更新から乱高下、次の半減期が目前に
-
2024年4月22日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
ボルティモアの橋崩落、輸出・小売業者に影響
-
米国のMBA課程、人工知能分野の教育を積極化 〜 会社で求められる技能に学生側も関心を強める
-
2024年4月18日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
テスラ、急速充電網を開放~EV普及の節目となるか
-
2024年4月15日 アメリカ発ニュース, 米国ビジネス, 自動車関連
EV生産コスト、27年にはガソリン車より安く~ガートナーが予想
-
人間の労働力の方が人工知能より安価 〜 MITの研究、雇用機会の大部分は人工知能にまだ奪われないと結論
-
ドローン配送に現実味~運用範囲広がる