人工知能の活用が急激に拡散するなか、時給15ドル(米国の最低賃金)の労働者たちがそれを陰で支えている。CNBCによると、カンザス・シティーに住む34歳のアレクセイ・サヴロー氏は、そうした労働者の一人だ。同氏はこれまでファスト・フード店でのサンドイッチ作りから廃棄物回収人までさまざまの仕事をしてきた。同氏のいまの仕事は人工知能の教育係りだ。
▽人工知能訓練段階のレイベリングや文章データの需要は無限
サヴロー氏は、人工知能システムを教育するという地味な作業を舞台裏で行っている多数の契約労働者の一人だ。同氏の報酬は時給15ドルで、福利厚生はまったくない。
オープンAIのチャットGPTをはじめ、昨今、脚光を浴びるようになった高度の人工知能技術が望ましい結果を生成できるようになるには、データの分析方法をシステムに学習させる必要がある。サヴロー氏はそのために、写真のレイベリングや、人工知能が生成すべきテキスト予想といった単純作業をこなしてきた。
人工知能の教育を目的としたデータとして使える文章やレイベリング、そのほかの情報に対するニーズは、ほぼ無限に存在する。
「私たちは単純作業労働者だが、その存在がなければ人工知能システムは存在できない」と同氏は言う。「どんなにすばらしい神経回路網(ニューラル・ネットワーク)を設計しても、ライベル付けをする人がいなければチャットGPTはない」。
▽低賃金労働力に支えられる歴史
サヴロー氏の仕事は、富や名声とは無縁で、しばしば見落とされる人工知能開発業界の一側面だ。
「人工知能に関する会話の多くはお祝いムードだが、それが大量の低賃金労働力に依存しているという重要な側面を見落としている」と、サンフランシスコの非営利団体パートナーシップ・オン・AI(Partnership on AI)のプログラム責任者ソナム・ジンダル氏は話す。
技術業界はこれまで何十年にもわたって、低賃金の非熟練労働力に依存してきた。1950年代にはパンチカードのオペレーターが存在した。最近では、グーグルの契約労働者が、正社員とは異なる黄色のバッジを与えられたことに不満を表明したことがあった。
アマゾンのクラウドソーシング・サービス「アマゾン・メカニカル・ターク(AmazonMechanical Turk)」のようなウェブサイトでも、オンラインのギグ(単発)労働者が増えている。
新たに形成されつつある人工知能産業は、それらと類似した軌跡をたどっている。
▽パートナーシップAが提唱した指針の導入を表明したのは1社のみ
そういった低賃金労働者らが引き受ける仕事は、「オン・デマンド」の性質があり、安定性に欠ける。そういったギグ経済(単発の契約にもとづく経済活動)では、発注元の会社または第三者業者との合意のもと、労働力とその対価に関する取り引きが成立するだけで、健康保険を含む福利厚生はほぼ皆無だ。
パートナーシップAIは、2021年に発行した報告書のなかで、「データ・エンリッチメント」と呼ばれる種類の仕事が急増していることに警鐘を鳴らした。同団体は、技術業界が公正な待遇を約束すべきだと訴え、2022年には自主指針も発行した。
その指針の遵守をこれまでに公表したのは、グーグル傘下のディープマインド(DeepMind)のみだ。
「多くの人たちがその重要性を認識している。課題は、会社らに実践してもらうことだ」とジンダル氏は話した。
▽ケニアのギグ労働者たちが労組を結成
需要の高まりを受けて、労働者も待遇改善を要求し始めている。「タイム」誌が2023年1月に報じたところによると、フェイスブックやティックトック、チャットGPTのために働いているナイロビ(ケニア)の150人の労働者が、労働組合の結成を決めた。低賃金と仕事のストレスを改善するよう訴えている。
これまでのところ、人工知能関連の請け負い労働者らが米国で同様の労働運動を起こしている例はない。
サヴロー氏は、オンラインで求人広告を見て、いまの仕事を始めた。ホームレスから脱却するのを助けてくれたと話している。時給15ドルは、カンザス・シティー地域の最低賃金を少し上回る。
人工知能の関連会社らがこの種の労働者を何人雇っているかは明らかではない。しかし、世界中でますます一般的になりつつある労働形態だ。
オープンAIは、東欧や南米で約1000人の遠隔労働者にデータ・レイベリングといった単純な繰り返し作業を発注している。
▽やや複雑な作業で勉強する起業家志望者も
人工知能モデルを教育するためのデータをつくる仕事のなかには、比較的複雑なものもあり、起業を夢見る人が引き受けている場合もある。
テキサス州オースティンのジェイティン・クマール氏(22歳)は、大学でコンピューター科学の学位を取得したのち、過去1年ほどにわたってその種の仕事をしてきた。「技術が公開される前に、その活用方法を考え始めることができる」と同氏は考えている。
同氏の仕事は、おもにプロンプトを生成することだ。「30~45分おきに新しいタスクを与えられ、それを達成するためのプロンプトを作成する。『フランスの首都はどこか』のように簡単なプロンプトのこともある」と同氏は説明する。
そのほか、チャットGPTの利用者らが、チャットボットの出力したテキストを見直してほしいとリクエストしてきた場合に、それを確認する仕事もあるという。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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