ウォール・ストリート・ジャーナルによると、老朽化した橋やトンネル、産業施設といった社会基盤の点検や保守管理においてロボットが活躍し始めている。本稿では、ロボットが基幹設備の保守管理をいかに自動化かつ合理化しているかについて前編と後編に分けて紹介する。
▽集合住宅や橋の倒壊で問題視される経年劣化の深刻さ
パイプラインや船舶も含む米国の重要基幹設備は、かなりの度合いで老朽化している。米国土木学会(American Society for Civil Engineers)は、それらの基幹設備を対象とした最近の評価で「C-」の成績をつけた。
建物や設備の老朽化が極度に進んだ場合の成り行きは深刻だ。フロリダ州サーフサイドでは2021年に、高層住宅が突如として部分的に倒壊し、死者98人という大惨事が起きた。ピッツバーグでは2022年に築50年の橋が倒壊した。ジョー・バイデン大統領が同市を訪れて国の社会基盤設備に関する演説をする直前の出来事だった。
老朽化は通常の場合、経年劣化(たとえば自然な腐食や過酷な天候が重なる結果)で生じる。文筆家のカート・ヴォネガット氏がかつて書いたように、「だれもが建てたがるが、保守管理はだれもしたがらない」ことが最大の課題かもしれない。
▽シェル、壁を垂直に這い上がるロボットを試験運用
石油大手のシェルは、ルイジアナ州バトン・ルージュからほど近いミシシッピー川の東岸で1967年から化学品製造施設を操業してきた。最近になるまで同施設を検査する際にはその部分の操業を停止する必要があった。巨大な設備を検査する作業は、命や四肢を落としかねない危険な作業だ。
しかし最近では、操業を停止する必要もなければ作業員らが高所に上る必要もなく、ロボットで点検している。ロボットは壁を垂直に這い上がり、さまざまの検知器を使って腐食やひび割れを検出する。そのため、操業を一時停止して作業員が立ち入る際にも、その時間を大幅に短縮できるようになった。
シェルの同施設で活躍しているロボットは、ピッツバーグ拠点の新興企業ゲッコー・ロボティクス(Gecko Robotics)が開発したものだ。現在、その試験運用で効果が確認されたことから、シェルは海洋採掘施設を含むほかの事業所にもゲッコーのロボットの導入を拡大する計画だ。
▽跳躍や歩行、泳ぎ、這う動作を実現するロボットに人工知能を統合
シェルの取り組みは、民間と軍事用のありとあらゆる基幹設備の保守管理で起こっている大きな動向を浮き彫りにしている。点検や保守管理は、これまで定期的なスケジュールで行われていたが、さまざまのツールを駆使して、問題が発生する前に対処する予想保守(predictive maintenance)へと移行しつつある。
それらのツールに含まれるのが、跳躍や歩行、泳ぎ、這う動作を可能にしたロボットに加え、各種の検知器、データを理解する人工知能だ。
▽スカイディオ、現場の点検向けにドローンを提供
「われわれの世界は多数の基幹設備(社会基盤)に依存している」「それらの多くがデジタル技術の恩恵を受けていない」「その事実は驚くべきことだ」と、カリフォルニア州サン・マテオ拠点のドローン開発会社スカイディオ(Skydio)のアダム・ブライCEOは話す。
同社は最近、消費者向けのドローン事業を閉鎖して法人向け事業専門に軌道修正した。公益会社80社以上や35州の交通管理当局、シェルを含む石油&ガス会社がスカイディオの技術を採用し、いずれも上空から設備を点検するためにドローンを使っている。
▽基幹設備腐食のコストはGDPの3~4%
過去50年ほどのあいだに腐食の直接コストを算出する研究がいくつも行われてきた結果、GDP(国内総生産)の3~4%という結論が出ている。その比率を世界にあてはめれば、年間数兆ドルのコストがかかっていることになる。
「腐食には数百もの種類がある。当社ではどの種の損傷が起こっているかを分析する技術を開発してきた」とゲッコー・ロボティクスのジェイク・ルーサラリアンCEOは話す。
同社はもともとロボット開発の会社として起業したが、最近では、収集したデータを処理するソフトウェア開発に事業を拡大している。スカイディオのブライ氏は、「必要なデータがあることは明白」「それらを収集するのが難しいだけだ」と話す。
▽社会基盤点検ロボットは小型軽量が重要
ゲッコー・ロボティクスのロボットは、磁石の力で鉄鋼製の設備を這い上がることができ、またスカイディオの小型ドローンは自動操縦でどこへでも飛ぶことができる。
さらに、ヴィデオレイ(VideoRay)が20年前から開発してきた水中ロボットもある。水中ではGPSや人工衛星通信が使えないため、水面のトランスポンダー(transmitterとresponderを合体させた造語で、受信した電気信号の中継送信や、電気信号と光信号を相互に変換を可能にする機器)に対する位置を音波で確認する必要がある。検知器にはカメラや超音波が使われる。それらの技術開発にはこれまで何十年もの歳月が費やされ、米海軍のほか洋上資源開発業界の会社らが研究&開発費に取り組んできた。
ヴィデオレイの最新ロボットは重さ38ポンドで、一人で運ぶことができる。軽量という要素は、多数の作業員や重機を必要としないという点で重要だ。
スカイディオのドローンも重さ3ポンド未満、幅2フィート以下と小型だ。屋外と屋内の両方で敏捷に飛び回る。必要な方向にカメラを向けるには小型化が欠かせない。
▽点検以外の作業をこなすロボットも登場
最近の社会基盤(基幹設備)点検用ロボットは、問題を評価するだけでなく、これまで人間がこなしてきた作業を肩代わりできるようになりつつある。
たとえば、グリーンシー(Greensea)は、船舶の船底外板の状況を確認して、フジツボやほかの付着物を除去するロボットを有料サービスとして提供している。
同社のベン・キナマンCEOによると、顧客会社らは、同社のロボットを積んで航海に出ることもできれば、港に停泊中に使って船体を清掃することもできる。
▽旧態依然とした幹部陣営が技術導入の障害
巨大なエネルギー会社のように、基幹設備の操業停止が年間数十億ドルのコストや売り上げ喪失につながる事業体にとって、点検と保守管理の体制を刷新することの大きな利点は容易に理解できる。しかし、問題は、大企業や行政および軍組織には、これまで何十年にもわたって実践してきた保守管理のやり方が存在することだ。
「正直なところ、その種の技術を導入するうえで最大の課題は人間だ。新しい技術が自分の専門性を侵害すると感じれば、自動化技術の価値を理解して認めることは難しいだろう」と、シーメンス・エネルギーのアダム・ミドルトン取締役は指摘した。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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