事務系の労働市場が軟化し、離職率が急激に下がっている。新型コロナウイルスのパンデミック期間中、米国では大量の労働者が早期退職を選んで企業は対応に追われたが、今は「自分から仕事を辞める人が少なすぎる」という当時考えられなかった問題が起きている。
■「大離職時代」から一転
ウォールストリート・ジャーナルによると、大企業の中には、人が辞めないため部署の予算が不足し、プロジェクトを延期するか新たに人員を減らすかの検討を強いられるところがある。職務の空きが圧倒的に減って人事異動が難しくなる中で、優良社員の勤労意欲をどうやって維持するかに悩む管理職も増えている。
労働省が発表した2023年10月の雇用統計によると、全米の退職率は3カ月連続で2.3%にとどまり、ピークだった22年4月の3%から低下した。
パンデミック期には、ロックダウン(都市封鎖)の緩和に伴い労働者がより良い賃金や労働条件を求めたため退職者が急増。過去最高に達して「GreatResignation(大離職)」と呼ばれた。しかし、人材派遣会社アデコ・グループが10月に発表した調査によると、今年は労働者の73%が現在の職場に留まるつもりだと答え、前年の61%から上昇している。アデコのデニス・マシュエルCEOは「マクロ経済があまり良くないため、人々は今外に出るのは少し厳しいと感じているのだろう。いちばん新しく入った人が最初に切られることが多いため、人々が現在の職務にとどまる可能性は高くなる」と分析する。
■人の異動は健全で必要
バンク・オブ・アメリカは1月、投資家に「今年は新規採用の削減と自然減によって社員数を減らす」と説明していたが、離職者の減少でこの作業は難しくなり、ブライアン・モイニハンCEOは10月「記録的な低離職率が続いているため、チームは人員削減にもっと努力が必要になった」と述べた。
8万人を擁する証券大手モルガン・スタンレーは、自然減が少なかったこともあり、ここ数カ月で複数の解雇を実施。ジェームズ・ゴーマンCEOは10月中旬「ウォール街全体で本当に優秀な人材が求められているが、当社には逆の問題があった」と説明している。
ウェルズ・ファーゴのマイク・サントマッシモ最高財務責任者(CFO)もこの夏「自然減が予想以上に少ないため、人員削減のために退職金の増額を計画している」と投資家に語ったが、10月中旬にもこの発言を繰り返し「依然として自然減が低水準で推移しているため、まだ人員削減の余地があると考えており、来年はさらに退職金が発生する可能性が高い」と述べた。
製薬会社フェリング・ファーマも、約6000人の社員の離職率が5年ぶりの低水準だった22年を下回っており、米国部門のパービ・テイラー人事担当副社長は「社員の多少の異動は健全で必要。人が辞めると、業績の良い従業員に昇進の機会が与えられ、雇用主は新鮮な視点や需要のあるスキルを持つ新しい人材を迎え入れられるが、離職率が低すぎると、特に社内で人が動かないと物事が停滞し始める」と話している。
(U.S. Frontline News, Inc.社提供)
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