人工知能分野の米大手らは、中国への依存を小さくすべく、フォックスコンをはじめとする台湾の製造業者らに対し、メキシコでの生産拡大を要請している。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、その背景には米中間の緊張悪化と北中米協定という要因がある。
▽ナフタに代わるUSMCAがメキシコの機会を拡大
近年、多くの製造業者らは、米国・メキシコ・カナダ協定(U.S.-Mexico-CanadaAgreement=USMCA)を受けて、中国からメキシコに生産拠点を移している。
2020年7月1日に発効したUSMCAは、ナフタ(NAFTA、北米自由貿易協定)に代わる協定と位置づけられ、北中米の労働者や農家、牧場主、会社らに相互利益をもたらし、より均衡のとれた互恵貿易を生み出し、北中米経済の成長を支援することを目的とする。
「(北中米3ヵ国が)アジアからの輸入品をできるだけ代替したいと考えている」と指摘する台湾貿易センター(Taiwan External Trade Development Council)の黄志芳(ジェイムス・ファン)会長は、「その共通の意識にもとづいて、メキシコは同協定にとってもっとも重要な製造拠点になるだろう」と話した。
▽フォックスコン、メキシコでの工場整備に大型投資
台湾フォックスコン(Foxconn)は2024年2月に、メキシコ西部のハリスコ州の土地購入に約2700万ドルを投じた。人工知能サーバーの生産を大幅に拡大するための用地とみられる。同社は、過去4年間でメキシコに6億9000万ドルを投資したと説明している。
内部筋によると、同社のメキシコ施設では、アマゾンやグーグル、マイクロソフト、エヌビディアといった米技術大手らのための人工知能サーバーが製造されている。
それらの米技術大手らは、人工知能サーバーがフォックスコンによってメキシコで生産されているかどうかを明らかにしていない。
▽メキシコ、今後10年間に激変か
メキシコにおける台湾企業らの存在感の増大は、「メキシコの産業構造を向こう10年間で劇変させる」過程の一部だ、とメキシコ最大の民間企業団体であるメキシコ工業会議所連盟(Confederation of Industrial Chambers of the United Mexican States=CONCAMIN)のフランシスコ・フランシスコ・セルバンテス代表は話している。
人工知能アプリケーションの運用に必要となるハードウェア、たとえばサーバーやストレージ、冷却装置、コネクターは、外観からは人工知能以外の処理を実行するハードウェアと変わらないように見えるかもしれない。しかし、内側には最新のプロセッサーが搭載されており、特別な仕様になっている。
▽メキシコにも課題は山積み
その種の機器類の生産数が増えるなか、米企業らは、アップルと筆頭に世界に流通するスマートフォンの大半が中国で組み立てられているという15年以上の歴史を繰り返さないよう慎重に動いている。
ただ、メキシコにも高い犯罪率や水道および電力の供給不足、激しい賃金競争といったリスクがある。台湾企業のなかには、地元の窃盗団への対策として民間警備会社に依存している会社もある。
また、メキシコの労働者は中国の労働者にくらべて残業をしたがらない。メキシコの労働者は組合に所属しているうえ、USMCAの労働基準の適用対象でもある。
▽インヴェンテック、高い技術で米大手を納得させる
人工知能サーバーを製造するインヴェンテック(Inventec)は、メキシコの拠点を拡大している台湾大手の一社だ。同社のメキシコ事業責任者アーチ・チェン氏によると、ある米顧客が当初には米国内で製造したいと希望していたが、インヴェンテックのメキシコ施設を視察したのち、技術水準に満足してメキシコでの生産に同意したという。
米国は高性能人工知能チップの対中輸出を実質的に禁じているため、最新技術を搭載した機器を中国で製造するのは困難になりつつある。
デルやHPE(Hewlett Packard Enterprise)といった米国の技術製品製造大手らは、一部のサーバーやクラウド関連機器の供給会社らに対し、製造拠点を東南アジアとメキシコに移転するよう働きかけていると伝えられている。
▽自由貿易協定で世界一のメキシコ
メキシコは、米中関係緊張悪化を受けて、人工知能関連の機器製造を拡大させてきた。メキシコは50ヵ国と14種類の自由貿易協定を結んでおり、その数で世界一だ。その結果、アジアと欧州、米国の自動車メーカーらが流れ込み、メキシコはいまや世界5位の自動車輸出国となった。
テスラをはじめとする電気自動車メーカーらも、メキシコ工場の開設を検討している。台湾企業も、自動車業界への部品供給を目的として、メキシコ中部および南部に投資してきた。
台湾の政府行政官によると、メキシコには台湾企業が300社ほどあり、計7万人を雇用している。また、メキシコの政府統計によると、台墨(台湾とメキシコ)間貿易高は2023年に150億ドルを上回った。
▽台湾の「電子機器6兄弟」
台湾のメーカーらは、テキサス州エルパソに近いシウダー・フアレスやモンテレーに集中している。それらの場所には台湾の「電子機器6兄弟」と言われるフォックスコンとペガトロン(Pegatron)、ウィストロン(Wistron)、クアンタ(Quanta)、コンパル(Compal)、そしてインヴェンテックの施設がある。
それら6社をはじめとする台湾の製造大手らは、世界のサーバー用マザーボードの90%を生産している。また、GPU(graphics processing unit)の上流部分の部品製造では、フォックスコンだけで70%以上を占めている。
▽米国への輸出、メキシコが中国を抜いて首位
米国の国勢調査統計によると、米国の輸入品に占める中国産の割り合いは2023年に13.9%となり、2015年の21.5%から縮小した。一方、メキシコからの輸入品の割り合いは2%上昇して15.4%となり、1位に踊り出た。
メキシコのラケル・ブエンロストロ経済大臣は、台湾からの訪問団を2023年に迎えた際、特に半導体といった技術製造部門でさらに多くの台湾企業と協業したい意向を強調した。
「メキシコは米州大陸の国であり、過去5年間に空港や鉄道、高速道路といった重要社会基盤の開発や整備に最大の投資をしてきた。それを忘れてはならない」と同大臣は述べた。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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