人工知能の統合戦略におけるアップルとマイクロソフトの違い 〜 最近の発表から見えてくるそれぞれの取り組み方

アップルとマイクロソフトは、自社のOSで動作する端末に人工知能を統合するための戦略を進めている。ベンチャービート誌によると、両社はいずれも、人工知能を活用した各種の機能を自社のアプリケーション群に組み込むことで市場での立場を強化しようとしているが、取っている戦略は異なる。

▽アップル、洗練された製品を開発してから市場投入

アップル(Apple)はこれまで、洗練された製品を開発して最新技術を搭載し、将来のアプリケーションに対する余地を残すという戦略をつねにとってきた。ヴィジョン・プロ(Vision Pro)やアイパッド・プロM4(iPad Pro M4)にその戦略が顕著に表れているが、新型機種が毎年発売されるマックブック(MacBooks)やアイフォーン(iPhones)にもそれが見て取れる。

アップルは、それらの新しいハードウェアを活かしたOSの更新と新しい機能やソフトウェアを徐々に市場投入している。同社がM1チップを発表した時点では、大規模言語モデル群(large language models=LLMs)をマックで動作させるなどもだれ考えていなかった。いまではLLMsを最適化するツールが存在し、アップルの開発班は端末上で動作するLLMsを頻繁に投入している。

▽チャットGPT採用で急場をしのぐ?

しかし、その手法には問題がある。端末上で動作する生成人工知能が未成熟なことだ。現時点では、端末上で動作するLLMsは、複数のタスクを独立してこなせるほどの信頼性がない。

生成人工知能新興最大手のオープンAI(OpenAI)は、5月中旬に開催した催事「スプリング・アップデート」において、チャットGPT(ChatGPT)のマックOS版を発表した。同アプリケーションは、アップルの製品機能に現時点で存在する穴を埋めるものと理解することができる。

▽マイクロソフト、先行投入を重視

一方のマイクロソフト(Microsoft)は、最新の人工知能技術をまず市場投入したうえで、どのようにして利用者らに近いところに置くかをあとから考える戦略をとっている。もちろん、オープンAIとの提携関係が、最新のLLMsを利用できる立場をマイクロソフトにもたらしている。

ただ、マイクロソフトは、メタのラーマ(Llama)やミストラル(Mistral)といったオープン・ソースのLLMsもサポートすることで、多くの製品を取り込む姿勢を示している。マイクロソフトはそれと同時に、ファイ(Phi)やオルカ(Orca)のような小規模言語モデル群も市場投入している。

マイクロソフトはまた、コーパイロット(Copilot)を中核ブランドに据えることで、オープンAIへの依存度を下げ始めている。ウィンドウズ製品全体に統合するコーパイロットは、タスクごとに最適のLLMsを使うことになる。最近発表したコーパイロット+PC(Copilot+ PC)でもその方向性が明らかになった。

▽アップル製品向けチャットGPTはマイクロソフトのトロイの木馬

オープンAIがマックOS向けのチャットGPTアプリケーションを発表したあと、マイクロソフトが100億ドルも投資したオープンAIがマックOS向けを投入したことを揶揄する声も表面化した。

しかし、マイクロソフトがコーパイロット+PCを発表したいま、チャットGPTはマイクロソフトがアップルの生態系に入り込むためのトロイの木馬になったと見ることができる。

チャットGPTは、マイクロソフトのアジュール・クラウドで動作することから、マックOSやiOSにチャットGPTが深く統合されていくにつれ、アップルの利用者体験に対するマイクロソフトの影響力が強まる。マイクロソフトがそれを最初から想定していたかどうかはわからない。

▽アップルのWWDCに関心集まる

第1ラウンドはマイクロソフトの勝ちと言えるかもしれない。ただ、生成人工知能ブームは、始まってからまだ1年半してたっていない。したがって、両社の戦略がこれからどのように展開し、どのような結果につながるかを予想することは、当然ながら不可能だ。

アップルは、毎年恒例の開発者向け会議「WWDC(Worldwide DevelopersConference)」を6月に主催する。ことしは6月10日から6月14日にかけて開かれる。同社が生成人工知能関連の新機能を発表することはほぼ確実で、その内容はすでに非常に注目されている。

(Gaean International Strategies, llc社提供)

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