ウォール・ストリート・ジャーナルによると、多くの医師たちは、アップル・ウォッチが特定の医療向け用途での使用許可をFDA(Food and Drug Administration)やそのほかの規制当局から取得済みかどうかにかかわらず、患者の診断や健康管理の方法の一部として使っている。
▽アップル・ウォッチがデータを主治医に転送
ウォール・ストリート・ジャーナルの技術記者で同記事の執筆者であるクリストファー・ミムス氏の実母は、心房細動という心拍障害の既往歴があり、主治医のすすめでアップル・ウォッチ(Apple Watch)SEを使っている。
彼女によると、生活様式と服薬の継続的管理の一環として、アップル・ウォッチが収集したデータを主治医に直接転送できるという。主治医はそれをもとに症状の経緯を追跡し、健康管理や治療計画に役立てている。
▽ノースウェスタン大学の教授、アップルと協力
装着者の生命兆候や各種のデータを追跡するほかの承認済み端末があるにもかかわらず、アップル・ウォッチが多用されている実態に関する研究報告書は複数ある。
シカゴにあるノースウェスタン大学医科大学院の循環器内科医兼教授のロッド・パスマン博士は、「私の医院では、『心拍に異常がある、とアップル・ウォッチが言っている』と言う人が来ない週はない」と話す。
パスマン教授は現在、全米85の研究センターとアップルの協力を得て、国立衛生研究所の助成金による6年間の研究を実施中だ。同研究は、心房細動患者が血液をサラサラにする薬を服用する時間を大幅に短縮するために、アップル・ウォッチのデータをアプリケーションで利用できるかどうかを調べている。
▽服薬負担の軽減に効果あり
心房細動患者は通常、心房細動が起きているかどうかにかかわらず毎日服薬するよう医師から指示される。患者にとっては精神的に苦痛であり、薬代もかかる。
しかし、心房細動が実際に起きているかどうかをアップル・ウォッチで検知することで、患者は心房細動が起きてから30日間だけ服薬すれば済むことが期待される。
パスマン氏らは、同研究を実施するために、心房細動とすでに診断された患者に不整脈が起きていることを警告するためにアップル・ウォッチを使うことを許可する例外をFDA申請し、承認を得た。
▽アップル、心拍数データへの直接アクセスを提供
パスマン氏が主導する治験は、これまで10ヵ月にわたって行われている。同氏の研究班は、最終的に登録を予定している5000人以上のうち550人をまず募集した。
アップルの工学者たちは、心拍数データへの直接アクセスを研究班に提供することで同氏らの研究を支援している。それは、アップル・ウォッチやアイフォーン向けの第三者アプリケーション開発業者らには提供されないものだ。
▽心臓専門医ら、アップル・ウォッチを買うよう推奨
ほかの多くの心臓専門医も、心房細動の既往歴がある患者に対して、不整脈検出機能を果たす端末としてアップル・ウォッチが未承認にもかかわらず、心房細動に関する異常を早期に検知する手段としてアップル・ウォッチを買うよう患者に伝えている。
厳密に言えば、アップル・ウォッチは、心房細動に異常があることを警告する機能についてはFDAに承認されたが、心房細動の既往歴がない人がその機能をオンにする前に、心房細動の既往歴があるかどうかを聞かれた際に「いいえ」と答える必要がある。
▽アップル・ウォッチ利用者のアドヒアランスは高いという利点
FDAの見解では、少数の例外を除いて、医療従事者らは一般的に、合法的に販売されている患者用医薬品または医療機器を未承認または特定の未承認用途のために処方または使用することを選択できる。
アップルは、2023年だけで約4000万個のアップル・ウォッチを出荷した。それ以前にはもっと出荷していた。アップル・ウォッチ利用者200人近くを対象としたある研究では、それらの人たちは5日のうち4日、1日平均14時間以上、アップル・ウォッチを装着していることがわかった。その調査結果は、患者のアドヒアランス(治療方針に賛同して積極的に治療を受けること)が非常に高いことを示す。一般的には、ある一定の割り合いの患者は医師の治療方針を守らない。そのため、アップル・ウォッチ利用者のアドヒアランスは、主治医にとって非常に好ましい。
▽医療専門家たちによる機能検証が増加
そういった背景から、アップル・ウォッチから医師に転送されるデータの新たな応用法が広範の研究を刺激している。たとえば、研究者たちは、人々がどれだけストレスを感じているかをアップル・ウォッチからのデータをもとに判断したり、術後回復の様子を追跡して改善したり、子どもの心臓の健康状態を追跡したりするのに使われる可能性があると報告している。
アップル・ウォッチは、装着者の身体活動量と心拍数のデータを継続的に収集する。利用者が運動を始めると、心電図をすぐに記録する。それらのデータはすべて、アップルやほかのだれにも介入されることなく主治医に転送され分析される。
アップル・ウォッチの医療応用について重要なことは、この数年ほど、アップル・ウォッチの新たなアプリケーションに関するほとんどの研究発表が同社によるものではないことだ。つまり、アップル・ウォッチの医療用途が医療専門家たちによって検証され高評価を得ているということだ。
▽アップル・ウォッチで命拾いした心臓専門医の症例報告
一方、アムステルダムに住む72歳のアップル・ウォッチ利用者であるルード・コスター氏は、50年の経験のある心臓専門医であることも手伝って、アップル・ウォッチの心電図をもとにみずから診断し、命拾いしたと語る。同氏はあるとき、アップル・ウォッチに表示された心電図トレイスに、最後に一回だけくぼみがある異常を見つけた。それは、無症候性心筋虚血として知られる心臓問題の可能性を示していた。
不快感やそのほかの症状がなかった同氏は、その後1時間以上、アップル・ウォッチを使って心電図検査を続けた結果、主治医の診察を受けるべき、とアップル・ウォッチから通知された。同氏はその直後、狭窄した心臓動脈を固定するバイパス手術を受けた。同氏はその一部始終を最近の症例報告にまとめ、アップル・ウォッチがなかったら手遅れになっていた可能性が高いと報告した。
ただ、アップル・ウォッチには誤検出という課題がある。大量のデータを集めることから、正常にもかかわらず異常という判断をくだし、不要かつ高額の検査を利用者にすすめる可能性はつねにある、とコスター氏は指摘した。
(Gaean International Strategies, llc社提供)
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