シリーズ世界へ! YOLO② 韓国 世界文化遺産をめぐる旅
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2010年9月20日
慶州
Gyeongju
慶尚北道をさらに1時間、南東へ向かって走ると、慶州(キョンジュ)に着く。紀元前57年から紀元後935年まで続いた新羅(シーラ)王朝(日本語では「しらぎ」)の都、世界史の中でも数少ない「千年古都」である。
高句麗(こうくり)、百済(くだら)との「三国時代」を制した新羅は、仏教を国教として半島を統一し、7~8世紀に最盛期を迎えた。中国や日本、イスラム諸国との交流も進み、当時の慶州は100万人が住む、イスタンブールやバグダッド、西安に匹敵する国際都市だったという。政治と経済の安定は芸術や科学技術の発展につながり、慶州には高度な仏教文化が華開いた。遺跡や文化財は数えきれず、街全体が5地区に分けられ、それぞれ世界文化遺産の指定を受けている。
石窟庵
Seokguram Grotto
新羅の人々は、慶州を囲む五山のうち、東方に頂を持つ吐含山を守り神として崇拝した。その山中、標高565メートルに、「新羅の最高傑作」「韓国一神秘的な微笑み」と讃えられる仏像がある。乳白色のみかげ石でできた釈迦如来像。東海(日本海を韓国ではこう呼ぶ)の方を見つめて座っている。岩を組んでドーム型の天井にした人工の石窟に安置されていることから、「石窟庵(ソックラム)」と呼ばれる。
完成は774年。角形ブロックだけで築かれたように見えるドーム天井の不思議、岩下の湧き水を利用して窟内の湿度や温度を自然に調節させる仕組みなど、今日の技術を持ってしても難しい、精密な設計だ。古の記録には、「神の力を借りて石から絹を紡ぎだして造られた」とあるそうだ。
仏国寺
Bulguksa Temple
そこから数キロほど下った山間に、「仏国寺(プルグクサ)」がある。石窟庵とともに、1995年、韓国で最初の世界遺産に認定された。
極楽浄土が自分たちの王国にあってほしいとの願いを込めて、528年に創建。参道から本殿に向かって、青雲橋、白雲橋などと名付けられた階段を上がり、門をくぐるごとに、俗世から彼岸、極楽へと渡っていく。静かで緑豊かな寺には、150人の僧侶が住み込んで修行を積んでおり、熱心な仏教徒が韓国全土から参拝に訪れる。
南山
Mt. Namsan
「南山(ナムサン)に登らずして、慶州を知ることなし」。慶州に生まれ育ち、週に3回は南山に登るというツアーガイドのクリントさんは、そう断言する。
韓国に南山と名の付く山は幾つもあるが、慶州は特別。東西南北4キロ四方、深い谷や切り立った崖、半月のような形をしたこの山は、山岳仏教の中心地だ。山全体を仏塔に見立て、大小さまざまの磨崖仏(まがいぶつ)が彫り込まれた。新羅初代王の生誕地が山中にあるとされ、「死後は東海の竜王となって国を守る」と言い遺し、海中に葬られたという文武(ムンム)王の墓も近く、神話の世界が息づく。
年間300万人が訪れる聖山は、グローバル経済が席巻する現代の癒しスポットにもなっているようだ。クリントさんは、月に2回程度、ソウルやニューヨークから来る投資家らに頼まれて南山を案内する。4~5時間かけたハイキングは、石仏群を辿り、山頂の寺でお茶を一服、瞑想も行なう。
大陵苑古墳公園
Daereungwon Tomb Complex
慶州の重要な遺跡のほとんどが南山の周辺に散らばる。研究解明されていないことも多く、市内のあちらこちらで発掘作業が続く。
「大陵苑(テヌンウォン)」は、慶州最大の古墳群。5~6世紀に造られたと見られる23基が並ぶ。唯一内部が公開されている「天馬塚」からは、純金製の王冠や勾玉(まがたま)、翡翠(ひすい)の装飾品をはじめ、1万点以上の副葬品が見つかった。
雁鴨池
Anapji Pond
慶州の食といえば、プルコギ。やわらかい慶州ビーフは、王様に上納された。南山の裾野が一望できる伝統食品体験館「スリメ」では、韓国式家屋で、無形文化財の宮中料理「クジョルパン」を食べさせてくれる。朴美淑(パクミスク)館長は、TVドラマ「チャングムの誓い」の行事にも関わる料理研究家。
慶州では、大麦もよく穫れる。お土産に、どら焼きに似た「大麦パン」。老舗菓子屋の「皇南パン」で、こしあんがたっぷり入った手作り饅頭を買う。
日没を見計らって、「雁鴨池(アナプジ)」へ向かう。ここは、文武王が674年に建てた離宮庭園だ。海を模した人工の池に、珍しい鳥や動物を放って遊んだという。日が落ちると、園内は見事にライトアップされ、離宮の建物が水面に長い影を落とす。建設当時、「月の池」と呼ばれたのも納得がいく。新羅の黄金期に思いを馳せ、世界遺産をめぐる旅のハイライトにふさわしい、慶州最後の夜になった。
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