シリーズ世界へ! YOLO⑦ セイシェル
エデンの園と呼ばれた島

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

Photo © Mirei Sato

女性のココ・デ・メア。セイシェルの街中のどこでも見かける
Photo © Mirei Sato

Praslin

 ココ・デ・メア(Coco de Mer)は、世界で最も不思議な、人間の想像をかきたてる植物だろう。

 「女」ココの実は、丸くてふっくらハリがあり、人間の女性のお尻にそっくり。ひっくり返すと、女性の下腹部とほぼ同じ形状を見せる。「男」ココも、人間の男性器そのもので、長い尾っぽのような房をつける。どちらも、並みの人間より、かなりセクシーな体型である。

 インド洋にあるアフリカの島国・セイシェル共和国でしか見ることができない。

 その昔、海を渡って流れ着いた女ココの実を拾い上げた人たちは、「これはなんだ」と不思議がった。神話に出てくる「炎の鳥が住む海底に生えた木」に成る実に違いないと話す人もいた。18世紀の冒険家がセイシェルにたどり着き、密林に群生する男女のココを発見すると、関心はさらに高まり、こんな噂も広まった。

 ——離ればなれに立つ男女のココは、シャイである。嵐が島を襲う夜、男ココは女ココのもとへ歩いていき、身を寄せ合う。男女のココの交わりは情熱的で、しかし、それを目撃した人間はいない。見たら最後、死んでしまうか、目がつぶれてしまう。

 ヒトがこの木を真似たのか、それとも誰かがヒトを真似てこの木を植えたのか…。

 大航海時代にやって来たヨーロッパ人は、科学では説明がつかない存在を前にして、ココ・デ・メアを、アダムとイブが食べてしまった「禁断の果実」と考え、セイシェルこそ聖書に出てくる「エデンの園」と信じたという。

◆  ◆  

 この、世にも奇妙なヤシの実を見に、今夏、セイシェルを訪れた。同国のプラリン島(Praslin)には、ココ・デ・メアの原生林で、ユネスコの世界遺産に指定された「ヴァレ・デュ・メイ」(Vallee de Mai)がある。

 園内を歩くと、すぐに頭上に男女のココが見つかる。男の木の高さは大体30メートルで、女は24メートル。身長のバランスも人間に近い。200〜400年も生きるというココの木だが、発芽から20年が過ぎるまで「性別」は分からない。

 ガイドさんいわく、実際には、受粉は9割が風によって、残り1割はヤモリに運ばれて起きる。でも、鬱蒼とした森に時折吹く風がザワザワと立てる音を聞いていると、「嵐の夜のロマンス」を信じたい気持ちも湧く。

 女ココの実は、緑色がかった果実で15キロ以上と重い。残念ながら、お尻の形のままぶらさがっているわけではない。皮をはぐと繊維状のさやに収まったタネがあり、これを磨くと「きれいなお尻」になり、さやを適切な場所にいくらか残せば体毛のように見えるというわけだ。

 昔から王族の贈り物に使われたという女ココ。公式に認証を受けたものがギフトショップで数百ドル出せば買える。男女それぞれを精巧に、あるいは男女を絶妙にカップリングした置物や工芸品も山ほど売られている。
 


 

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