シリーズ世界へ! YOLO⑦ セイシェル
エデンの園と呼ばれた島

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

セイシェルの人たちは日曜は教会へ行く。扉の木彫りや、ステンドグラスの絵は、セイシェルの歴史や文化、南国のイメージをモチーフにしている Photo © Mirei Sato

セイシェルの教会
Photo © Mirei Sato

Mahe

 セイシェルのもう一つの魅力は、飄々としてユーモアあふれる人々だ。

 島の生活は規則正しく、のんびりしている。マへ島の「世界一小さな首都」ビクトリアでは、夕方になるとオフィスや店は閉まり、皆が一斉に帰宅する。日曜は教会に行き、午後は家族や友人とビーチへ。「といっても、木陰に座って飲んで食べて、音楽をかけてパーティーするだけ。泳ぎが得意な人はあんまりいない。海に入るのは、食べ終わって手を洗う時ぐらいかな(笑)」。ガイドのスティーブさんが教えてくれた。

 セイシェルの労働人口は4万6千人ほど。それに対して年間の観光客数は20万人。これだけギャップがあると、いくら観光が主要産業とはいっても、「よそ者」に対して多少は冷たい気持ちを抱くものではないかと思うが、そんな様子はない。スティーブさんに理由を聞くと、「クレオールの文化と歴史かな。ここでは皆が『よそ者』みたいなものだから」と言う。

 18世紀半ばにフランス人が入植して自国領にするまで、セイシェルには誰も住んでいなかった。初期の住民は、フランス人と、東アフリカから連れて来られた奴隷、インドやマレー半島からの労働者で、混じり合った「クレオール」と呼ばれる独特の言語や食べ物を生み出した。1811年にイギリスの植民地になるが、1976年に独立。今は「皆が仲良くブレンドして暮らす国」という旗印を掲げている。

 スティーブさんも、母はタンザニアとインド、父はイギリスとモザンビークの血を引いているそうだ。「アフリカは世界で最も多様な大陸だ」と言われるが、セイシェルのような島でもそれはよく分かる。

◆  ◆  

 気候が安定していて、火山噴火や地震、台風などの災害に見舞われる心配がないのも、のんびりした気質に貢献している。といっても、2004年のスマトラ島沖地震では、セイシェルにも津波が押し寄せた。高さ2メートル半の防波堤を超えて、内陸にも水が及んだというが…。

 「その3日前にゾウガメが一斉に山に向かって歩き出したんだ。その前にセイシェルに津波がきたのは1883年。人間は皆死んでいるけれど、ゾウガメは覚えていたんだね」とスティーブさん。「次にどこかで大地震が起きたら、BBCもCNNも見ない。ゾウガメが動いたら、皆で後をついていくよ」と笑って話している。

 「カメに合わせて歩くのも疲れるのでは?」と誰かが突っ込むと、「大丈夫。セイシェルの人たちは普段からカメよりのろいぐらいだから。早足で歩いたり走ったりしていると、泥棒か火事でも起きたかと疑われちゃう。それに、あんまり急いでいるように見せないのが、この島ではクールなんだ。湿気があるし、汗かいちゃうでしょ。本当は結構忙しいんだけどね」と、これまた楽しそうに返した。
 

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