第53回 ボランティア活動
文&写真/寺口麻穂(Text and photos by Maho Teraguchi)
- 2013年2月5日
愛犬ジュリエットを地元のアニマル・シェルターから引き取った後、「恩返しに」という思いで始めたのがシェルターでのボランティア活動でした。それまでは遠い世界だったシェルターでの仕事、ふたを開けてみれば10年以上続けていました。今回は自らの経験をもとにシェルターでのボランティア活動のあれこれをお話します。
共感性疲労(コンパッション・ファティーグ)
アニマル・シェルターやレスキュー団体でのボランティア活動には誰もが陥りやすい落とし穴があります。①人間嫌いになる、②心労にかかる、③取り付かれた状態になるなどです。動物愛護関係の現場に居ると人間の一番醜い部分をこれでもかと目の当たりにします。自分が愛する犬たちが彼らのせいではなく人間の罪で苦しい思いをしているのを常時見るのは心が引き裂かれます。そこから極度の人間嫌いに陥り、動物とだけの世界を作るようになることも。また、その悲しい現実が知らず知らずにかなりの重いストレスになり精神を襲うことも。同時に「助けたい!」という気持ちが走り過ぎて取り付かれた状態になり、四六時中シェルターの犬たちのことしか考えられない状態に陥ることもあります。これらの症状はコンパッション・ファティーグ(共感性疲労)の一種で、こういう現場に居る人たちみんなが多かれ少なかれ経験することです。もちろん私自身も経験しました。高い理想を掲げると倒れそうになるので、小さいゴールを達成できればよしとし、できることだけすればよい…と言い聞かせて気持ちをコントロールするコツをつかみました。現実から目をそらさず、一人で抱えこまないように注意し、シェルター以外の生活とのバランスを上手くとることがコツだと思います。自分自身の心身のバランスが取れていないと他者のために役立つことは難しいと思います。まずは自分のケア。そして他者という順を忘れずに。
ボランティア活動は誰のため?
私は犬と直接関わっていることが活動の必須条件でしたが、現場での仕事は精神的に厳しく、また肉体的に無理という場合もあるでしょう。そんな場合でも十分ほかの形で活動することが可能です。たとえば、料理が好きならば犬のビスケットを焼いて寄付する。裁縫が好きならば犬たちの寝具や防寒用のジャケットの製作をする。パソコンやデザインのスキルがあるなら、宣伝用のポスターやウェブサイトのプロジェクトを手伝ったりする。自分自身に負担にならず、楽しめて長続きし、また自分が一番活躍できる場所を見つけ出せばいいと思います。どこでどう活動している人が一番という競争ではなく、みんながそれぞれの持ち場で役目を果たすことがWin-Winへの鍵でしょう。
ボランティアというのは自由がきく上に無料でいろんなスキルを学べて、また普段の生活では関われないような人たちとのネットワークもできるのでいろいろな特典があります。また、シェルターなどでボランティア活動をすると犬のボディーランゲージがより理解できたり、しつけのスキルも習得できたりします。それらを習得すると愛犬との関係がさらに深まることになります。

10年近く居たシェルターのボランティアの同志がお別れ会をしてくれました
Photo © Maho Teraguchi
長年の経験から見て、日本人のボランティア活動への関わりは低いように思います。ボランティア活動という歴史が比較的浅い日本社会ですが、アメリカ社会のボランティアの場で日本人がどんどん活躍することを期待します。いずれ日本に帰国するなら、こちらでの貴重な体験がきっと役立つと思います。私は恩返しの意味で始めたボランティア活動から自分の可能性と能力を発見することができ、人生が変わりました。もしかしたらボランティア活動をすることによって自分自身を再発見するかもしれませんよ。
次回は、私自身も憧れる「多頭飼い」をお話します。お楽しみに!
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