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バリ島紀行 第4回 癒しの街、ウブド
文&写真/水島伸敏(Text and photos by Nobutoshi Mizushima)
- 2015年8月20日
散々寄り道をして、やっとウブドの街に着いた。旅行者に人気のこの街は、さすがにいい感じのレストランやお店がたくさんある。しかし、クタのようなモールでもなければ、大型のブランド店が並んでいるわけでもない。平屋や二階建ての昔の建物が今も使われているといった、どこか趣を感じる街だ。
王宮の十字路を街の中心にして、いくつかの目抜き通りが走っている。小さなカフェや小洒落た雑貨屋、ジュエリーショップに洋服のセレクトショップが並んでいて、ギャラリーや美術館などもたくさんある。そんな通りを歩いているとなんだか、ヨーロッパとアジアを同時に旅しているような気分になってくる。
街の中には、雰囲気のいい高級ホテルもあれば、ホームステイとかロスメンとか呼ばれる安宿もいたるところにある。こういった宿は、たいてい地元の人が家を改築して経営している、いわばバリ風のB&Bといったところだ。バリの家に滞在しているようで私にとってはこの安宿のほうが居心地よかった。
バリの典型的な家とは、周りを囲う石壁の中に台所やリビング、ダイニングに寝室がそれぞれ独立して建てられている。リビングやダイニングなどは三段ほどの石床の上に屋根だけがあるといったオープンな空間で、いかにも南国ならではの作りをしている。そして、バリの物価はおよそ、日本やアメリカの半分以下なので、私が泊まった宿などは1泊10ドルほどで軽い朝食までついてくる。長期でウブドに滞在する人が多い理由はこんなところにもある。
ウブドの街には、スーパーマーケットのようなものがほとんどない。小さなナチュラルフードストアなどはあるが、野菜やフルーツは、みんな決まって朝の市場で買う。
翌日の朝、王宮のむかいにあるウブド市場を覗いてみた。野菜やフルーツをはじめ、魚や鶏、供物用のお花やお線香などが所狭しと売られている。その間をぬうようにして、両手いっぱいに買い物袋をさげた人たちが、大勢行ったり来たりしていた。小さな屋台では、仕事や学校前に朝食を済ませようという人たちが列を作っている。しかし、少し遅すぎたのか、多くの店はもう片付けだしていた。
どうやら野菜や果物の市場は、真っ暗な内から始まり8時ごろにはもう片付けだすらしい。その後に民芸品や工芸品のお店が開く。野菜や果物、魚などが朝の早い時間だけ売られるのは、陽が昇ると南国の暑さですぐに傷み始めるからだという。
市場を覗いているとそこで暮らす人たちの日々の生活を垣間見ることができる。すっかり気に入って、毎朝市場に通うようになった。時折、滞在中の旅行者が昨日買ったドリアンが傷んでいたなどと苦情をいっている。それもなんだか冷蔵庫などない青空市場ならではの風情にも思えてくる。今日使う野菜を買いにくる。そしてまた明日の朝、明日の野菜を買いにくる。当たり前のこの素朴な光景がとても素敵に見えた。
朝、市場に行ったあとに必ず散歩に行くようになった。市場を出るとすぐに王宮の十字路がある。まっすぐにしか進むことのできない悪霊を通させないためにこの街の十字路は少しずらして作られている。その十字路を過ぎて脇道へと入ると、急にひっそりとしてくる。バリの典型的な石壁の家が続き、その先の坂道を登ると目の前に田園が広がった。しばらく田園を見ながらヤシの木の道をのんびりと歩いた。
田園の中にもお寺があった。この辺りの水田には、スバックという灌漑施設ごとの共同体がある。千年以上続いているそのスバックは、やっぱりそれごとにお寺を持っている。
この田園の散歩道には雰囲気のいいスパやカフェなんかもある。時折、畑仕事をしている人と話しながら、フルーツをごちそうになったりした。採りたてのココナッツの水が南国の暑さを癒してくれる。
ウブドの街では、多くの旅行者がゆっくりとした時間をすごしたり、緑を近くに感じながらマッサージを受けたり、スパやヨガに通ったりしている。みんな、ここに心と身体の癒しを求めてやって来ているようだ。伝統と芸術で色付いている信仰の街、ウブドの魅力はこの「時間」にもあるように思えた。
カフェで一休みしていると、鳥の声や風の音がやさしく聞こえてくる。この先も長閑なこの風景やここで暮らす人たちの生活が変わらなくあってほしいと思う。でも、それは、田園の中に建てられたカフェで、自分がこうしてコーヒーを飲んでいることとつくづく矛盾していることなのだとも感じてしまう。
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