シリーズアメリカ再発見㉚
胃袋がいなないた!
ケンタッキー 馬とバーボンの旅

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

Bourbon Country
バーボン・カントリー

 ルイビルからレキシントンにかけての州北東部は、その中間にあるバーズタウンを含めて、バーボンの一大生産地だ。アメリカのバーボンの95%が、ここでつくられているという。

 うまいバーボンができる秘密は、ケンタッキーの水にあると言われている。石灰石を含んだ水は、鉄分を自然と濾過して取り除いてくれるので、苦みと曇りがない味がつくれる。

 そして何より、カルシウムとマグネシウムが豊富。「健康のために飲んでま〜す、なんちゃって」と、酒飲みオヤジのダジャレになりそうなことをつぶやいてみたが…。
 「そうですね。競走馬がよく育つのも、この水のおかげですから」。地元の人たちには、案外真顔で受け止められてしまった。
 骨の成長に大切なカルシウム。子供も大人も、バーボン飲んでりゃ牛乳要らず、か?

 バーボンと銘打つためには、いろいろと厳しい条件がある。原料の最低51%はコーンを使う、焦がしたホワイトオークの樽で寝かせる、色や風味を変えてはいけない、など。

 アメリカの魂とも呼ばれるバーボン。ここ十数年、国内外ともにすごい勢いで人気が復活している。1999年、ケンタッキー州全体で、倉庫で熟成中のバーボンは45万バレル強だったが、2012年には4700万バレルに跳ね上がった。

 世界のバーボンの半分以上をつくっている超大手「ジム・ビーム」。バーズタウン近郊にある蒸留所では、「増産体制」を強化中だ。現在72の倉庫に210万バレルが保管されているが、それでも足りず、新しい倉庫をつくっていると聞いた。

Photo © Mirei Sato

Photo © Mirei Sato

 200年以上の歴史があるジム・ビームは、昨年、日本のサントリーに買収された。「アメリカを代表するブランドが、また一つ消えていくのか…」。私の周りでは、そう言って嘆くアメリカ人が何人かいた。

 さぞかし地元でも…と思っていたが、行く先々で質問をぶつけてみた相手は、皆、たいした感想もなさそうだった。「日本たたき」など遠い昔。ビジネスにおけるグローバル化がごく普通になったことの証だろう。
 ただ、「ケンタッキーの人間としては寂しいけれど、買収を断る理由が見つからないほど多額のお金を積まれたのかもね」と言う人もいた。

 バーボンの飲み方はストレートやオン・ザ・ロックに限らない。ケンタッキーでは、カクテルにして飲むのも一般的だ。
 アメリカの南部各地で飲める「ミント・ジュレップ」。ケンタッキーでは、ダービーの「オフィシャル・ドリンク」として知られる。5月のチャーチル・ダウンズでは、ダービー開催の週末、12万杯のミント・ジュレップが売れるという。

 ルイビルの老舗ホテル「ブラウン・ホテル」のバーで、つくってもらった。カーリーヘアの女性バーテンダーが、フレッシュミント、ソーダ、シロップ、砕いたアイスを用意する。バーボンは、私が一番好きな「メーカーズ・マーク」で。
 シャカシャカシャカ。なみなみとつがれたカクテル。愛らしい名前と薄い色にだまされそうだが、たっぷりバーボンが入っていて、いやーうまい。しびれる、大人の味なのだ。

 あわせて、ケンタッキー名物「ホット・ブラウン」を注文する。ターキーとベーコンに特製チーズソースをかけて鉄鍋で焼いたサンドイッチだ。熱くてリッチ。デザートには、クルミとチョコチップがはいった「ダービー・パイ」を。バーボン以外は、どれも体にいいとは言いづらいけれど、胃袋がうれしくて小躍りした。

 ルイビルでもらったバーボンめぐりのパンフレットに、作家マーク・トウェインが引用されていた。
 「なにごとも、やり過ぎはよくないが、良質のウィスキーに限っては、いくら飲んでも飲み過ぎということはない」

 トウェイン自身の哲学なのか、物語の中で酔いどれオヤジがつぶやいた言葉なのかは分からないが、ケンタッキーの旅にはぴったりだ。ただしドライバーがいてくれたら、の話。飲み過ぎ運転にはご注意。
 


 

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