シリーズアメリカ再発見㉚
胃袋がいなないた!
ケンタッキー 馬とバーボンの旅

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

 

Photo credit: www.Kentuckytourism.com

Photo credit: www.Kentuckytourism.com

Lexington
レキシントン

 なだらかな丘陵に、ケンタッキー・ブルーグラスの黄緑色の葉が揺れる——。州の東端にあるレキシントンは、アメリカの競走馬産業のメッカだ。

 ケンタッキーで馬といえば誰しもルイビルを思い浮かべるが、「あそこはダービーの2分間だけ。それ以外のすべてのことは、レキシントンで起きるんですよ。ダービーの開催中だって、馬をよく知っている人はルイビルに行かず、ここに集まるぐらいですから」と、地元の人は胸を張る。

 ルイビルとレキシントンには、それぞれルイビル大学(愛称カージナルス)とケンタッキー大学(愛称ワイルドキャッツ)という公立大学が存在し、ことあるごとに対決する強力なライバル同士なので、多少の皮肉は込められていそうだが、誇張ではない。

 サラブレッドの飼育場が点在し、サッカーや野球をやるように子供たちが馬術に精を出す。市内のキーンランド競馬場は、サラブレッドの競り市を開くことで有名だ。

Photo © Mirei Sato

Photo © Mirei Sato

 そんなレキシントンが一番熱を帯びるのは、馬の繁殖シーズンにあたる、春かも知れない。

 いろいろ聞いていると、この世界、「血統」を守るのに一番大切なのは、ケンタッキーの水でも調教でもなく、「種付け」であることが分かってきた。

 サラブレッドと認められるためには、人工授精ではダメ。だから繁殖シーズンになると、「その道」に秀でた牡馬が選ばれる。そこへ世界中から馬主たちが、これはと見込んだ牝馬をトレーラーに乗せてやって来る。
 馬がその気になったら、即、ババッと手助けして「馬乗り」にさせる。牝馬は1日2〜3度、これを繰り返す。牡馬のほうはエンドレスだ。

 血統を証明するため、馬主はしっかりビデオ録画もする。馬主には借金がある人もいる。血統のいいサラブレッドを産ませることに成功すれば、借金も返せるから、真剣だ。種をいただくのだからもちろん有料で、逆に、約束通りに種が付かなければ返金してもらうとか、そんなやり取りもあるらしい。

 種付け現場を見たことがある人の話では、馬主を含めた見学者たちは、馬のムードを損ねないようにと物音ひとつにも神経質で、異様〜な雰囲気。ミント・ジュレップ片手に…なんていう世界からは、ほど遠かったそうだ。

 いやはや、うわさ話に聞く「皇室の初夜」みたいなシーンではないか…。それに、もしも産めない体質の牝馬だったら価値はないのかしら、などと考え出すと、女性としては気分のいい話ではない。

 しかし、なにごとも、見ずして決めつけてはいけないだろう。ぜひともナマで見てみたい! 春はもうすぐ。また行こうか。心(胃袋)は早くもケンタッキーへ飛んだ。

Photo © Mirei Sato

Photo © Mirei Sato

取材協力/Special thanks to Mississippi River Country, Kentucky Department of Travel and Tourism, Lexington Convention & Visitors Bureau, and Louisville Convention & Visitors Bureau

 

1 2

3

4

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

関連記事

アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用

注目の記事

  1. 「石炭紀のガラパゴス」として知られ、石炭紀後期のペンシルバニア紀の地層が世界でもっとも広範囲に広が...
  2. ジャパニーズウイスキー 人気はどこから始まった? ウイスキー好きならJapanese...
  3. 日本からアメリカへと事業を拡大したMorinaga Amerca,Inc.のCEOを務める河辺輝宏...
  4. 2024年10月4日

    大谷翔平選手の挑戦
    メジャーリーグ、野球ボール 8月23日、ロサンゼルスのドジャース球場は熱狂に包まれた。5万人...
  5. カナダのノバスコシア州に位置する「ジョギンズの化石崖群」には、約3 億5,000 万年前...
  6. 世界のゼロ・ウェイスト 私たち人類が一つしかないこの地球で安定して暮らし続けていくた...
  7. 2024年8月12日

    異文化同居
    Pepper ニューヨーク同様に、ここロサンゼルスも移民が人口の高い割合を占めているだろうと...
  8. 2024年6月14日、ニナが通うUCの卒業式が開催された。ニナは高校の頃の友人数名との旅行...
ページ上部へ戻る