Lexington
レキシントン
なだらかな丘陵に、ケンタッキー・ブルーグラスの黄緑色の葉が揺れる——。州の東端にあるレキシントンは、アメリカの競走馬産業のメッカだ。
ケンタッキーで馬といえば誰しもルイビルを思い浮かべるが、「あそこはダービーの2分間だけ。それ以外のすべてのことは、レキシントンで起きるんですよ。ダービーの開催中だって、馬をよく知っている人はルイビルに行かず、ここに集まるぐらいですから」と、地元の人は胸を張る。
ルイビルとレキシントンには、それぞれルイビル大学(愛称カージナルス)とケンタッキー大学(愛称ワイルドキャッツ)という公立大学が存在し、ことあるごとに対決する強力なライバル同士なので、多少の皮肉は込められていそうだが、誇張ではない。
サラブレッドの飼育場が点在し、サッカーや野球をやるように子供たちが馬術に精を出す。市内のキーンランド競馬場は、サラブレッドの競り市を開くことで有名だ。
そんなレキシントンが一番熱を帯びるのは、馬の繁殖シーズンにあたる、春かも知れない。
いろいろ聞いていると、この世界、「血統」を守るのに一番大切なのは、ケンタッキーの水でも調教でもなく、「種付け」であることが分かってきた。
サラブレッドと認められるためには、人工授精ではダメ。だから繁殖シーズンになると、「その道」に秀でた牡馬が選ばれる。そこへ世界中から馬主たちが、これはと見込んだ牝馬をトレーラーに乗せてやって来る。
馬がその気になったら、即、ババッと手助けして「馬乗り」にさせる。牝馬は1日2〜3度、これを繰り返す。牡馬のほうはエンドレスだ。
血統を証明するため、馬主はしっかりビデオ録画もする。馬主には借金がある人もいる。血統のいいサラブレッドを産ませることに成功すれば、借金も返せるから、真剣だ。種をいただくのだからもちろん有料で、逆に、約束通りに種が付かなければ返金してもらうとか、そんなやり取りもあるらしい。
種付け現場を見たことがある人の話では、馬主を含めた見学者たちは、馬のムードを損ねないようにと物音ひとつにも神経質で、異様〜な雰囲気。ミント・ジュレップ片手に…なんていう世界からは、ほど遠かったそうだ。
いやはや、うわさ話に聞く「皇室の初夜」みたいなシーンではないか…。それに、もしも産めない体質の牝馬だったら価値はないのかしら、などと考え出すと、女性としては気分のいい話ではない。
しかし、なにごとも、見ずして決めつけてはいけないだろう。ぜひともナマで見てみたい! 春はもうすぐ。また行こうか。心(胃袋)は早くもケンタッキーへ飛んだ。
取材協力/Special thanks to Mississippi River Country, Kentucky Department of Travel and Tourism, Lexington Convention & Visitors Bureau, and Louisville Convention & Visitors Bureau
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