シリーズアメリカ再発見㉘
Eat Me in St. Louis !
生誕250年 セントルイスを食べる

文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)

アメリカの水動脈、ミシシッピ川とミズーリ川が交わる場所。ルイス&クラーク探検隊が出発した、西部への玄関口。アメリカ最初のオリンピック開催地。ビール党と野球ファンの天国——。この街には、いくつもの称号がある。最近は「グルメタウン」としても、ひそかに注目を集める。今年(2014年)で生誕250年。バースデーケーキがあふれるセントルイスの街を、食べ歩いた。(*情報は掲載誌発行時点のものです)

Photographer: Dan Donovan.  Copyright © St. Louis Convention & Visitors Commission. All Rights Reserved.

Photographer: Dan Donovan.
Copyright © St. Louis Convention & Visitors Commission. All Rights Reserved.

BREAKFAST

Rooster Crepe Sandwich Cafe
1104 Locust Street, St. Louis, MO
314-241-8118
www.roosterstl.com

セントルイス名物の「スリンガー」。グレイビーの下にポテトや目玉焼きが埋まっている。これに「朝ビール」をセットで!Photo © Mirei Sato

セントルイス名物の「スリンガー」。グレイビーの下にポテトや目玉焼きが埋まっている。これに「朝ビール」をセットで!
Photo © Mirei Sato


名物のクレープPhoto © Mirei Sato

名物のクレープ
Photo © Mirei Sato

 1日で一番大切なのは「朝ごはん」だというけれど、食べ歩きの旅でもそれは同じこと。
 地元の人が口を揃えて薦める、ダウンタウンの「ルースター」へ。セントルイスはもちろんミズーリ州の人気ナンバーワンにも選ばれ、全米の朝食スポット・ベスト25に入ったこともある店だ。
 ミズーリは、酪農、養豚、大豆や小麦、トウモロコシの生産が盛んな農業州だ。ルースターでは、セントルイスから半径100マイルでとれた地場産品だけを使う。ホームメードのクレープやドイツ風ソーセージ、グレイビーがたっぷりかかったビスケットが人気。フルーツやチーズもいいけれど、スパイシーなベーコン・ジャムを使ったクレープだと満足感が増す。
 セントルイス名物の「スリンガー」。ルースターのバージョンは、分厚いトーストにソーセージ、ポテト、目玉焼きをのせて、全部隠れるまでグレイビーをかけたもの。頼めばエクストラで、ステーキも「埋め」てくれる。ゆうに2000カロリーを超える。半分も食べないうちに、体の中が火照ってきた。
 中西部の中都市に共通することだが、セントルイスのダウンタウンも決して華やかではない。街からそれほど遠くないところでも、差し押さえ物件や、つぶれた工場跡、板を打ちつけた空き家が目につく。同時にセントルイスでは、古いビルをうまく改装したレストランやバーが新芽のようにあちこちに生まれていて、歩くと、若さや健全な活力が感じられた。「食」が街の再開発をけん引しているのだ。

ルースターのオーナー、デーブ・ベイリーさん(左)と、エグゼクティブ・シェフのピーター・クラークさんPhoto © Mirei Sato

ルースターのオーナー、デーブ・ベイリーさん(左)と、エグゼクティブ・シェフのピーター・クラークさん
Photo © Mirei Sato

 ルースターのオーナー、デーブ・ベイリーさんは、ダウンタウンでワインバーやハンバーガー店など数軒を経営している。生まれ故郷のセントルイスに開業した理由を、「シカゴやニューヨーク、ロサンゼルスに比べて、美味しくて新鮮な食材を安く提供できるから」と語る。
 「最近は地元にUターンして起業する若者が増えています。特にカリナリー・シーン(料理の世界)は熱い。去年はシェフにとってのアカデミー賞と言われる『ジェームズ・ビアード賞』にセントルイスから5人もノミネートされました。中都市としては珍しいし名誉なこと。セントルイス=食の都は、もっと認知されてもいいと思いますよ」と胸を張っていた。

Benton Park Café
1900 Arsenal Street, St. Louis, MO
314-771-7200
www.bentonparkcafe.com

プロベル・チーズがはいったセントルイス・スタイルのピザPhoto © Mirei Sato

プロベル・チーズがはいった
セントルイス・スタイルのピザ
Photo © Mirei Sato


「McGriddle This」という名のスリンガー。パンケーキの間に卵とソーセージがごっそりPhoto © Mirei Sato

「McGriddle This」という名のスリンガー。パンケーキの間に卵とソーセージがごっそり
Photo © Mirei Sato

 食べ歩く旅なら、朝食から「はしご」しなくては。クレープとスリンガーだけで満足はできない。
 ベントンパーク地区にある人気のカフェへ。ここなら、セントルイス名物「プロベル・チーズ」をふんだんに使ったピザが、朝から食べられる。
 人生で大切なのは「Peace, Love, Provel」(平和と愛とプロベル)、という言葉があるぐらい、セントルイスの人々に愛されている。チェダー、スイス、プロボロンを組み合わせた特別なチーズだ。「Mad Men」の俳優ジョン・ハム(セントルイス出身)も、トークショー番組にプロベルを使ったピザを持ち込んでその美味しさを力説していたっけ。
 ピザを注文する前に、「People either love it or hate it」(好きな人と嫌いな人とハッキリ分かれる)と注意されたのだが、誰が嫌うのか理解できないほど美味しかった。
 ここの「スリンガー」もすごい。2枚の巨大なパンケーキに、スクランブルエッグとソーセージをはさんでいる。見ただけでゲップ…、などと言わずに食べてみると、どんどんいける。たいていアメリカのパンケーキは最初の2~3口しか美味しくないのだが、この店のは冷めてもウマい。ピザといいパンケーキといい、「粉もの」が得意な店なのだろう。付け合わせのポテトサラダも美味しくて、どんどん体が膨らむが、どうせ太るなら美味しいものを食べて太ろう。

Sump Coffee
3700 S Jefferson Avenue, St. Louis, MO
www.sumpcoffee.com

1杯を入れる作法はとても芸術的Photo © Mirei Sato

1杯を入れる作法はとても芸術的
Photo © Mirei Sato

 これで本当にお腹がいっぱい。早くもお昼寝したくなってくるが、そんなヒマはない。目覚ましに、ダウンタウン・サウス地区にある「サンプ・コーヒー」へ向かった。
 店の外まで漂うコーヒーの香り。オーナーのスコット・ケアリーさんの、小麦色に染まった立派なアゴヒゲ。1杯のコーヒーをだすのに懸ける真剣な目つきを見たら、眠気も吹っ飛んだ。
 ロサンゼルスやニューヨークと同じで、セントルイスでもグルメ・コーヒーがブームだ。サンプはそんな新文化の担い手で、地元の人気投票でトップに入っている。

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