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“Live Your Dream”
「夢を生きる テイラー・アンダーソン物語」レジー・ライフ監督に聞く
文/佐藤美玲(Text by Mirei Sato)
- 2015年6月5日

Courtesy of Taylor Anderson
友人たちが熱っぽく積極的に語っているのが印象的ですが?
インタビューをした誰もが、テイラーの「死」ではなく、「生」について語りました。陽気で、いつもハッピーだったテイラー。毎日が冒険のように、日本をエンジョイしていたテイラー。ニュースで流されたイメージとは違う、「本当のテイラー」について、皆が話したがっていたんです。テイラーの生を祝うように話してくれました。それこそ、テイラーの性格と生き方がもたらした影響だと思います。夢がもつパワーは、否定することができない。そう思いました。

Courtesy of Taylor Anderson
テイラーは、地震が起きたあと、何か特別な行動をとったわけではありませんでした。ほかの教師たちと一緒に子供たちを避難させた。必要なことをやっただけです。安全を確認したから、今度はアメリカにいる自分の家族に電話をしようと思ったのでしょう。テイラーはその日の朝、たまたま携帯電話を家に置き忘れていました。子供たちを親に引き渡して、自分の親が心配しているだろうと、自転車に乗ってアパートへ向かったのです。その3日前にも小さな地震があって、石巻に津波がきていたそうです。でもたいしたことはなかった。それでテイラーも、ほかの人たちも、またその程度だろうと思っていたわけです。40メートルもの津波がくるなんて、誰も思っていませんでした。
ドキュメンタリーでは、生前のテイラーが映っているビデオや写真をたくさん使いました。読書好きで静かな少女が、好奇心旺盛で冒険好きな若い女性に成長していく。いたずら好きでユニークな、テイラーのスピリットが伝わってきます。
私はテイラーに会ったことはありませんが、家族や友人を通じて、よく知っているような、同じ部屋にいるような気分になります。ドキュメンタリーの編集中もいろいろとおかしなことが起きて、「これはテイラーだね」とか「いまテイラーがいるんだな」とか、皆で言うことが何度かありました。
レジーさんが日本に惹かれた過程は?

今年3月、ロサンゼルスで行われた、
東日本大震災4周年のイベントで
Photo © Mirei Sato
これは自分の世代に共通しますが、ジュニアハイスクール時代、最初に日本に抱いたイメージは、「メード・イン・ジャパン」のオモチャでした。質が悪くてすぐ壊れる、というジョークがはやっていました。映画に興味をもつようになると、日本の古い白黒の映画にとても惹かれました。放課後になると、仲が良かった友達と一緒に、いつか行きたい国は日本、と話して夢見ていました。
ロサンゼルスでテレビのディレクターをしていた1990年、文化庁の招きで初めて日本に行きました。ちょうど映画産業が衰退し始めた時期で、はじめは望んだ仕事ができませんでしたが、山田洋次監督の「寅さん」の制作現場を6カ月間、体験しました。
終わったあと、撮りたい映画は何かと聞かれて売り込んだ企画が、日本で生きるアフリカ系アメリカ人たちにインタビューしたドキュメンタリー、「Struggle and Success: The African American Experience in Japan」です。
彼らもまた「被害者」と捉えられていましたが、むしろ反対で、アフリカ系であることをバネにして、母国アメリカでは「黒人だから」という理由だけで与えられなかった成功のチャンスをつかんでいました。
続編の「Doubles: Japan and America’s Intercultural Children」も、同じです。日本では、国際結婚で生まれた子供たちは、「ハーフ」と呼ばれます。それは差別的な呼び方であり、彼らにとって障害になりうることですが、彼らは「ダブル」というアイデンティティーを駆使して、二重の文化をもつことを力に変えていく。日米のいずれか、あるいは両国で、自分の居場所をつかんでいくストーリーを記録しました。
三部作最後の「After America …After Japan」では、日本に住んだアメリカ人が母国に帰るプロセスを描きました。帰るのは困難だけれど、それで終わりではない。国や人種といったグループの一員としてではなく、個人として、異国で体験し学んだことを生かして、より豊かに強くなって帰ってくる、というストーリーです。
テイラーの物語も、「自分で選んで、夢を生きる」「前に向かう」ということを描いている点では、同じ流れの中にあると言えます。
インターネットやテクノロジーのおかげで、バックグラウンドの異なる人たちと出会うことは、一見やさしくなっているように見えます。今の若者たち、テイラーさんやレジーさんがしたように、これから国境を越えようとしている人たちへの、メッセージは?
テイラーと同じぐらいの年齢の人たち、そしてもっと若い人たちが、このドキュメンタリーを見て、刺激を受けてくれたらいいなと願っています。
テイラーの人生が何かを教えてくれるとしたら、それは、私たちがボーダーレスな社会に生きている、ということではないでしょうか。私はテイラーに会ったことはないけれど、彼女は、会う人すべてと親密な関係を築けた人でした。ルックスに関係なく、「ハロー、フレンド」と言えた。そういう人だったと思います。

Courtesy of Taylor Anderson Memorial Fund
若い人たちには、旅をしてほしい。当然と思われているボーダーを、文化的・人種的・心理的なボーダーを、越境していってほしいです。勇気をもって、怖がらないで。他人がどう思うかなんて気にしない。自分はこれをやるんだ、これが自分がやりたいことなんだ、と。
私は、日本によって助けられました。一度ひらいたものは、二度と閉じません。「君はアメリカ人なんだ」。さらにその中のカテゴリーとして「君はアフリカ系なんだ」と。「ここが君の場所なんだ」と社会が押しつけるものに抵抗して、「No, it’s not my place」と言えるようになりました。
最近の世の中を見ていると、「分断の時代」に入ってしまったような気がして心配です。クリスチャンだ、ムスリムだ、ロシア人だ、ウクライナ人だ、と。大昔に戻ったように、「私のグループはこれ、あなたはアウトサイダーだ」という傾向があるようですが、とても危険で、非生産的なことです。若い人たちには、そうした分断を疑問視して、壊していってもらいたいです。
ヒットドラマ「The Cosby Show」「A Different World」などのディレクターを務める。1990年、全米芸術基金と日本の文化庁のスポンサーによるプログラムで日本へ。山田洋次監督の「男はつらいよ第43作」や「息子」の現場で研修。ドキュメンタリー「Struggle and Success: The African American Experience in Japan」で高い評価を受ける。三部作となる「Doubles: Japan and America’s Intercultural Children」「After America …After Japan」を制作。最新作は、沖縄県人として初めて芥川賞を受賞した大城立裕の小説「カクテル・パーティー」の映画化。
「Live Your Dream: The Taylor Anderson Story」DVDを発売中
(家庭用49.95ドル)。
■問い合わせ:LiveYourDream1@earthlink.net
■詳細:www.TheTaylorAndersonStory.com
www.GlobalFilmNetwork.net

テイラー・アンダーソン記念基金
「The Taylor Anderson Memorial Fund」
■詳細:www.TaylorAndersonMemorialFund.org
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